定義
クリーンルーム(Cleanroom)とは、空気中を浮遊する微小なチリやホコリの数を極限まで少なく抑え、室内の温度や湿度、気圧を一定に保つように作られた特殊な清浄作業空間のことです。
なぜチリひとつが致命的になるのでしょうか?
最新の半導体チップの中に描かれる回路は、配線の幅がナノメートル(10億分の1メートル)単位で作られています。人間の髪の毛の太さの数万分の一にすぎず、肉眼では絶対に見ることができません。
このように極限まで微細な世界では、普段私たちの周りを漂っているチリひとつでさえ、巨大な岩石や隕石のように恐ろしい脅威となります。丸いシリコン基板である「ウェハー」の上にほんの小さなホコリが1粒落ちるだけでも、光を使って精密な回路を描く工程の大きな妨げになってしまうのです。
ホコリが回路を遮ると光が届かず、回路が途切れたり(断線)、隣とくっついてショート(短絡)したりするトラブルが発生します。ホコリの粒が回路の重要な位置に乗ってしまうと、そのチップはそれだけで不良品になりかねません。光で回路を描く露光工程だけでなく、エッチング(削る)や薄膜形成(蒸着)など、あらゆる工程でチリは欠陥の原因になります。こうした不良が重なると歩留まり(良品率)が急落し、莫大な損失につながります。
このように、ごくわずかな異物ひとつがチップの正常な動作を台無しにしてしまうため、先端エレクトロニクス工場ではホコリを完璧にシャットアウトする環境が欠かせないのです。
空気を絶え間なく洗い流す換気システム
クリーンルームは、床を拭き掃除するような一般的な清掃のレベルをはるかに超えた特殊設備です。天井には、0.3μm(マイクロメートル)の微粒子を99.97%以上捕集するHEPAフィルターや、さらに微細な粒子まで99.999%以上ろ過するULPAフィルターがぎっしりと敷き詰められています。
高水準のクリーンルームでは、ろ過されたクリーンな空気が天井から床に向かって一定のスピードでまっすぐ吹き降ろされます。部屋の中で空気が乱気流を起こして渦を巻くとホコリが舞い上がってしまうため、上から下へとホコリを押し流す「一方通行」の気流をキープするのです。ホコリを巻き込んだ空気は床の小さな通気孔(グレーチング)から吸い込まれ、再び天井のフィルターへと循環してろ過され続けます。なお、清浄度基準が比較的緩やかな室では、清浄な空気を吹き込んでホコリを薄める方式もよく使われます。
半導体などの製造用クリーンルームでは、室内の気圧を外より常に高く保つ「陽圧」の仕組みも極めて重要です。パンパンに膨らんだ風船のように室内の気圧を高めておけば、作業者の出入りでドアが開いたときでも、中の空気が外に向かって押し出されるため、外部の汚れた空気が入ってくるのを防げます。逆に、危険な病原菌や毒性のある薬品を扱うバイオ・製薬施設の一部では、空気が外に漏れないよう「陰圧」にする場合もあります。
空気の流れだけでなく、室内の温度と湿度も一年中ミリ単位で精密に制御されています。湿度が低すぎると静電気が発生して回路を焼き切ってしまい、湿度が高すぎると金属がサビてしまうからです。
もう少し詳しく:人間と持ち込み品の徹底的な遮断
もう少し正確に言うと、クリーンルームで最も警戒すべき最大の汚染源は、機械ではなく「そこで働く人間」です。人間は呼吸をして体を動かすだけで、皮膚の角質やフケ、髪の毛、衣服から出る繊維くずなどを1分間に数十万個も撒き散らしてしまうからです。
そのため作業者は、頭からつま先まで隙間なく全身を包み込む特殊なクリーンスーツ(防塵服)に身を包み、専用のマスク、ブーツ、手袋を必ず着用します。スーツを着た後も、四方八方から高圧のクリーンエアを吹き付ける「エアーシャワー」を浴びて、表面に残ったチリを徹底的に吹き飛ばさなければ室内に入ることができません。
ルーム内に持ち込まれる装置や資材も、専用の洗浄液できれいに拭き上げた上で専用のパスボックスなどを通して搬入されます。普通の紙や鉛筆でさえ微細な粉塵が出るため、粉が出ない特殊なクリーンペーパー(無塵紙)や専用ペンしか使えません。
クリーンルームの清浄度は、空気の体積あたりに含まれる微粒子の数でクラス分け(等級付け)されます。先端半導体工場でウェハーが露出する心臓部では、1立方フィートあたりの空気中に0.5μm以上の粒子がわずか1個以下しか許されない「クラス1」という極限の清浄度が保たれています。これは旧米国連邦規格の基準で、現在の国際規格(ISO 14644-1)では「ISOクラス3」前後に相当します。
よくある誤解
クリーンルームは細菌やウイルスを完全に死滅させた「無菌室」である。
工業用クリーンルームは生物学的な殺菌ではなく、物理的な「微粒子(チリ・ホコリ)の数」をコントロールする空間です。極小の電子回路作りを邪魔する無機質なチリを排除することが主な目的です。
日常で出会う場面
ナノメートル単位の超微細回路を焼き付ける半導体製造工場
スマートフォンや高精細テレビに使われるディスプレイパネルの生産ライン
宇宙へ打ち上げる人工衛星の精密光学センサーやカメラレンズの組み立て室
つまり ひとことで
空気中の微小なチリを極限まで取り除き、温湿度や気圧を精密に制御することで、ナノ単位の超精密製品を不良なく製造するための清浄空間です。