定義
ハルシネーション(幻覚)とは、人工知能が事実ではない情報や存在しない情報を、まるで本当のことのように自然で堂々と語ってしまう現象です。だましてやろうという悪意があるわけではなく、次に来そうな「もっともらしい単語」を確率的に組み合わせていく中で起こる、AIの代表的な限界です。
なぜAIはウソを堂々と言うのでしょうか?
友だちと「文章のしりとりリレー」をしていると想像してみてください。前の人が出した言葉のあとに、いちばん自然につながる言葉を選んで文を完成させていく遊びです。
生成AI(大規模言語モデル)も、基本的にはこれとまったく同じ方法で文章を書いています。AIは、人間のように質問の本当の意味を深く理解して答えているわけではありません。これまで学習した膨大な文章をもとに「この質問のあとには、こんな言葉が来るのがいちばん自然だな」と計算して、単語を一つずつ並べているだけなのです。
問題は、正確な情報がないときでも、AIが「わかりません」と言うより、もっともらしい答えを作ってしまいがちなことです。答えが事実かどうかを別途確かめる仕組みは、基本的にはありません。文法がなめらかで文脈に合ったもっともらしい文づくりにだけ集中するため、世の中に存在しないでたらめな情報を、本物のように作り出してしまうのです。
もう少し正確に言うと:確率のわな
ハルシネーションはAIが愚かだから起こるのではなく、言語を生成する数学的な仕組みによって生じる、原理的に避けにくい現象です。
大規模言語モデルは、ネット上の文章や書籍、文書など膨大なテキストを読み、前の文脈のあとにどの単語が来る確率が高いかを学習しています。たとえば「日本の首都は」のあとには、高い確率で「東京」が来ることを統計的に知っているわけです。ところが、学習データにほとんど出てこなかった内容や、まったくない内容、似た情報が混ざりやすい質問、間違った前提を含む質問では、統計的なすき間ができてしまいます。
そのときAIは、すき間を埋めるために、これまで学んだたくさんの表現を統計的にこね合わせて、新しい答えを創作してしまいます。文章力の高いモデルほど、間違った内容もなめらかな論理で包んで出してくるため、人間はだまされやすくなります。
ハルシネーションを減らすための取り組み
ハルシネーションは、AIを安心して使うことを難しくする最大の壁です。特に法律・医療・金融のように正確さが命の分野では、重大な事故につながるおそれがあります。
そこで最近では、AIにすべての答えを頭の中の記憶だけから取り出させることはしません。信頼できる最新の文書やデータベースをまず調べさせてから回答を書かせる、検索拡張生成(RAG)という技術が広く使われています。試験で暗記だけに頼らず、教科書を開いて確認しながら答えを書かせるようなものです。
ただし、どれだけ技術が進んでも、AIが確率的に文章を作る性質上、幻覚を完全になくすのは困難です。ですから、AIが出した重要な数字や専門知識は鵜呑みにせず、人が自分で出典を確認するクロスチェック(相互検証)を必ず行いましょう。
よくある誤解
AIは人をだますために、わざとウソをついている。
AIにはウソをつこうという悪意や意図はまったくありません。確率的に次の単語をつなげていくうちに、事実と異なるでたらめな組み合わせができてしまっただけです。
AIモデルが大きくなれば、ハルシネーションは完全になくなる。
AIが単語を確率的に生成する仕組みを使っている限り、知識をでっち上げてしまう幻覚を100%完全になくすのは、構造的にとても難しいのです。
日常で出会う場面
存在しない歴史上の事件について質問すると、まるで史料に載っている公式の出来事のように、年代や人物まで本当らしく作り上げて答えてしまうケースです。
論文や記事の出典を求めると、実際には世の中に存在しない、もっともらしいタイトルの偽の論文や研究者名を作って紹介してしまうケースです。
つまり ひとことで
AIが質問を理解しているからではなく、次の単語を確率的につなげていく中で作り出してしまう、もっともらしいウソの回答のことです。