定義
感情ヒューリスティック(Affect Heuristic)とは、複雑な情報をていねいに検討するかわりに、心の中にぱっと浮かぶ好感や嫌悪といった感情的な反応に頼って判断したり選んだりする、心の近道のことです。ある対象に「いい感じ」と思うと、その対象のリスクを実際よりずっと小さく、メリットを実際より大きく見積もる傾向が現れます。
気分が電卓のかわりをするとき
新しい株に投資したり、高価な電子機器を買ったりするとき、本来は期待できるリターンとリスク、機能と価格をしっかり比べるべきです。ところが人の脳は、思っているよりエネルギーを使いたがらず、複雑な計算を避けようとするクセがあります。
そんなとき、心の中で「このブランド、なんだかおしゃれで素敵だな」という好感が先に湧くと、脳はその感覚を根拠にして、リスクは小さくて得は大きいはず と手軽に結論づけてしまいます。
本人は論理的で合理的な分析の末に決めたと固く信じていますが、実際には第一印象の感情が先に結論を出し、理性はあとからその決定をもっともらしく飾っているだけ、ということがよくあります。
得とリスクは反比例、という思い込み
現実の経済では、得られるリターンが大きければ引き受けるリスクも大きく(ハイリスク・ハイリターン)、リターンが小さければリスクも小さいというのが一般的なルールです。ところが感情ヒューリスティックにはまると、この2つが逆向きに動くという錯覚におちいります。
ふだんから好きな企業やなじみのある商品を見ると、「利回りもすごく高いし、元本割れのリスクもとても低い」と信じ込んでしまいます。反対に、第一印象が気に入らないものや見慣れない商品は、リスクばかり大きくて得るものはない と簡単に決めつけてしまうのです。
株式市場で、よく使うアプリやお気に入りのカフェの株を買うときに、企業の実際の財務諸表や負債の規模をきちんと確かめず、ついポンと買ってしまうのも、まさにこうした感情の錯覚のせいです。
もう少し正確に言うと:生き残りを助けた本能
もう少し正確に言うと、感情ヒューリスティックは、現代人に現れる役に立たない欠陥というだけのものではありません。人類の祖先が原始の時代に猛獣に出くわしたとき、牙の大きさや走る速さをいちいち計算していたら、生き延びられなかったでしょう。
「怖い、危ない」という即座の感情の信号のおかげで、じっくり考える暇もなく 素早く逃げて生き延びるのに役立った能力 だ、という説明があります。
けれども現代の複雑な金融投資や消費の環境は、原始時代の直感だけで乗り切るにはあまりに精巧です。気分だけを信じてまとまったお金を投資したり、契約書にサインしたりすると、痛い目にあいがちです。大事なお金の決定をするときだけは、自分の感情がささやく好感のサインにいったん一時停止ボタンを押して、落ち着いて客観的な数字とデータを確認する習慣をつけましょう。
よくある誤解
感情ヒューリスティックは、衝動的な人や感情の起伏が激しい人だけに起こる現象だ。
どんなに理性的で落ち着いた人でも、疲れているときや情報が複雑すぎるときは、脳のエネルギー消費を抑えるために、自然と感情ヒューリスティックが働きます。
日常で出会う場面
ふだんから好きな環境にやさしいブランドだからという理由で、企業の赤字の規模をよく確かめないまま、安全だと信じて株を買う場合です。
広告のモデルに好感を持ったからと、複雑な約款に書かれた高い手数料や元本割れのリスクを軽く見て、金融商品に加入してしまう瞬間です。
つまり ひとことで
複雑な計算のかわりに、好感や嫌悪といった即座の感情に頼って、得とリスクをゆがめて判断してしまう近道です。