定義
私たちが身のまわりで出会う普通の物質と、質量などの物理的な性質は完全に同じなのに、電荷などの性質の符号が正反対の粒子でできた特別な物質です。物質と反物質がぶつかると、2つの粒子はどちらも消えて、質量のすべてが巨大なエネルギーに変わります。
鏡に映った世界のように、ひっくり返った粒子
遊園地のミラーハウスに入ると、自分とそっくりなのに左右が逆になった姿が見えますよね。自然界の物質の世界にも、これと同じように、自分と完全によく似ているのに、いくつかの性質の符号だけが逆になった双子の粒子が存在します。これを科学では反物質と呼びます。
私たちが日常で目にするあらゆるものは、とても小さな原子でできています。原子の中心にはプラス(+)の電荷を持つ陽子があり、そのまわりをマイナス(-)の電荷を持つ電子がぐるぐる回っています。ところが反物質でできた原子は、この構造が鏡写しのように逆です。マイナス(-)の電荷を持つ反陽子のまわりを、プラス(+)の電荷を持つ「陽電子」が回っているのです。
驚くことに、両者の重さ(質量)や大きさは、小数点の最後の桁まで完全に同じです。電荷をはじめとするいくつかの性質の符号だけが、逆にひっくり返っています。そのため、電荷を持たない中性子にも、反中性子という反粒子が別にあります。
出会うと純粋なエネルギーになって消える運命
プラスとマイナスが出会うときれいにゼロになるように、物質と反物質が出会うと、この世でもっとも劇的な反応が起こります。2つの粒子がぶつかった瞬間、形も残さず完全に消えて、ものすごい光と熱を放ちます。この驚きの現象を対消滅と呼びます。
木や石炭を燃やすとき、熱エネルギーに変わるのは物質のごく一部だけです。原子力発電でさえ、全体の質量の1パーセント未満しかエネルギーに変えられません。ところが物質と反物質が出会うと、アインシュタインが明らかにした原理にしたがって、両方の質量のすべてがエネルギーに変わります。電子と陽電子はガンマ線という光にそのまま変わり、陽子と反陽子はいくつもの粒子を経て、ガンマ線やニュートリノのような粒子になって散らばります。
たった1グラムの反物質があるだけで、超大型ロケットを宇宙へ打ち上げられるほどの莫大なエネルギーが出ます。自然な状態の地球では、反物質は作られたそばから周囲の物質とぶつかってあっという間に光に変わり、消えてしまいます。だから私たちの目にはなかなか見えないのです。
もう少し正確にいうと:消えた反物質の謎
SF小説の話のようですが、反物質は粒子加速器の研究所で人工的に作って観察している、実在する粒子です。宇宙から飛んでくる高エネルギーの粒子である宇宙線が地球の大気にぶつかるときにも、ほんの一瞬だけ、陽電子が自然に作られることがあります。
もう少し正確にいうと、物理学者にとって反物質は、宇宙の起源を解く鍵です。約138億年前、宇宙が始まったビッグバンのとき、物質と反物質はまったく同じ量で生まれたはずです。理論どおりなら、2つの物質はすべてぶつかって消え、今の宇宙には光だけが満ちているはずでした。
ところが奇跡のように、10億個に1個の割合で、普通の物質が反物質より少しだけ多く生き残りました。その一握りの残った物質が集まって、星や惑星、そして今の宇宙をつくったのです。現代の科学者たちは、巨大な粒子衝突装置を使って、なぜ物質のほうが反物質より多く残ったのか、その神秘を懸命に解き明かそうとしています。
よくある誤解
反物質は重力を逆向きに受けて空に浮かぶ、反重力の物質である。
反物質も普通の物質と同じくプラス(+)の質量を持っているので、下に落ちます。電荷が逆なだけで、重力は普通にはたらきます。
日常で出会う場面
粒子加速器の研究所では、粒子を光に近い速さでぶつけ合わせて反物質を作り、研究しています。
宇宙から飛んできた高エネルギーの粒子が地球の大気にぶつかると、陽電子のような反物質が自然にできます。
つまり ひとことで
反物質は電荷だけが逆の物質の双子で、物質と出会うと、すべての質量が巨大なエネルギーに変わります。