定義
セルシェーディング(Cel Shading)は、3Dグラフィックスを手描きの2D漫画やアニメのように見せる特殊なグラフィックス技術です。光と影をなめらかなグラデーションではなく、数段階のはっきりした色の面に区切って表現し、太くくっきりした輪郭線で囲むことで、独特の味わいを生み出します。
なめらかな現実のかわりに、漫画のような色をのせる方法
粘土で作った立体の人形に照明を当てると、光が当たる部分から暗い部分まで、色がなめらかにつながります。3Dコンピューターグラフィックスも、本来はこうした自然な明暗(光と影の変化)をまねるように計算されます。けれどもセルシェーディングは、このなめらかなグラデーションを思い切って捨てます。
コンピューターに「光の明るさが70%以上なら一番明るい色、30%から70%のあいだなら中間の色、それ以下なら暗い影の色」というように、きっぱりした基準を与えるのです。すると複雑な立体の起伏が消えて、光と影が二、三段階のくっきりした単色の帯にシンプルになり、あっという間に平面的な漫画の絵のように変わります。
かつて2Dアニメをつくるとき、透明なフィルム(セル、Cel)にインクで線をなぞり、絵の具を一色ずつ塗りこんでいた方法に似ていることから、「セルシェーディング」という名前がつきました。
くっきりしたキャラクターを完成させる黒い輪郭線
色の段階を減らすだけでは、漫画らしさは完成しません。漫画ならではのはっきりした印象を決めるいちばん大切な要素は、キャラクターの体や服のすそを囲むくっきりした太い輪郭線です。
3Dモデルは、たくさんの多角形(ポリゴン)の殻でできているので、もともと輪郭線という線は存在しません。そこでグラフィックスのプログラムは、カメラの視線と物体の表面の角度をリアルタイムで計算します。視線から見て縁のほうへそれていく角の部分を見つけて、わざと黒い線を重ね塗りしたり、モデルを少しふくらませてから裏面だけを黒く塗って縁取りをつくったりする、ユニークな技術を使います。
もう少し正確にいうと、現代のセルシェーディングでは、画面をピクセル単位で分析し、隣り合う色や奥行きの差が急に変わる場所を見つけて縁取りの線を引く、ポストプロセス(後処理)の技術もあわせて使われています。
時がたっても野暮ったくならない味わい
本物の人間そっくりのリアルなグラフィックスは、技術が少し進むだけですぐに古びて見えがちです。いっぽう、セルシェーディングでつくられたゲームやアニメは、独自の絵柄そのものとして残るため、年月がたっても古びにくいと評価されるのが魅力です。
初期は2D漫画をまねるだけのレベルでしたが、いまでは日差しを受けた髪のつやや、風になびく襟元の影まで細かく調整できるほど進化しました。『ゼルダの伝説』やアニメ調のアクションゲームがこの方式を積極的に使っているのは、そのためです。
また、リアルなグラフィックスのように、あらゆる光の反射や屈折を極限まで精密に計算しなくてもよいので、独特の画風を一貫して伝えながら、画面の計算の複雑さを効率よく抑えられるという利点もあります。
よくある誤解
セルシェーディングのグラフィックスは、技術力が足りなくて2Dでざっと済ませたものだ。
3D空間で立体モデルとボーン(骨組み)をすべて丁寧に作ったうえで、光と影を計算する方式(シェーダー)を2D漫画のように見えるよう変えた、意図的な表現技術です。
日常で出会う場面
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のように、カートゥーンアニメの世界を自分で冒険しているような感覚を味わえる3Dゲーム
3Dモデリング技術でキャラクターをつくり、なめらかな2D作画の雰囲気に近づけて再現した日本の劇場版アニメ
つまり ひとことで
3Dモデルのなめらかな明暗を段階ごとの単色にシンプルにし、輪郭線をのせて2D漫画のように表現するレンダリング技術です。