定義
溶解熱とは、ある物質が液体(溶媒)に完全に溶けるときに、まわりへ放出したり、まわりから吸収したりする熱エネルギーのことです。粉が水と混ざると、外から加熱しなくても自然に温かくなったり冷たくなったりしますが、その理由がこの溶解熱です。
水を加えただけなのに、なぜ熱くなったり冷たくなったりするの?
スポーツのときに使う瞬間冷却パックをぐっと押すと、中の袋が破れて、あっという間に氷のように冷たくなります。反対に、冬の融雪剤に使う塩化カルシウムを水に混ぜると、湯気が立つほど熱くなります。火をつけたわけでも氷を入れたわけでもないのに、ひとりでに温度が変わるのです。
その理由は、物質が水に溶ける過程が、ただ混ざるだけのものではないからです。おとなしく固まっていた粒どうしが離れ、今度は水の分子と寄り添うときに、エネルギーのやり取りがごく小さなレベルで起きています。新しい物質ができる化学反応ではありません。
このときの熱エネルギーの出入りが、まさに溶解熱です。熱を外に出せば溶液の温度は上がり、反対にまわりの熱を奪えば溶液の温度はすっと下がる、という仕組みです。
エネルギーを出す理由と、奪う理由
塩のような物質が水に溶けていく様子をスローモーションで見ると、大きく三つの段階に分かれます。まず、ぎっしり固まっていた粉の粒どうしが、ばらばらに離れなければなりません。強い結びつきを断ち切る必要があるので、ここでは外からエネルギーをごくりと吸収します。
同時に、水の分子も粒が入ってくる場所をつくるために、お互いの距離を広げます。この過程でもエネルギーが使われます。最後に、離れた粒と水の分子が強く引き合って包み込むとき、ようやくエネルギーが外へ勢いよく放出されます。
つまり溶解熱とは、離れるときに使ったエネルギーと、新しく出会うときに出てくるエネルギーの差なのです。新しい出会いで放出する熱のほうが大きければ、熱くなる「発熱溶解」。離れるときに使った熱のほうが大きければ、まわりの熱を奪って冷たくなる「吸熱溶解」になります。
もう少し正確に言うと:冷たくなっても自然に溶ける理由
まわりの熱を奪って冷たくなるということは、溶けたあとのエネルギー(エンタルピー)が、溶ける前より高くなるという意味です。エネルギーだけを見れば不利な方向です。自然界はふつう、エネルギーが低くて安定した状態を好みます。それなのに、なぜ冷却パックの物質は、冷たくなりながらも自然にどんどん溶けていくのでしょうか。
そこには、エネルギーだけでなく、「粒がどれだけ散らばっているか(取りうる並び方の数)」を表すエントロピーが一緒にはたらいているからです。規則正しいブロックのように閉じ込められていた結晶が、水の中でばらばらに広がると、並び方の数は爆発的に増えます。
自然は、エネルギーを下げる方向だけでなく、乱雑になる方向にも喜んで進んでいきます。熱を奪ってエネルギーが少し高くなっても、粒が自由に散らばる効果のほうがずっと強いので、ひとりでに溶けていけるのです。
よくある誤解
粉の物質は、水に溶けるとどれも熱を出して温かくなる。
物質ごとに結びつきの強さは違います。塩化カルシウムのように熱くなる物質もありますが、硝酸アンモニウムや尿素のように、水に溶けながらまわりの熱を吸収して氷のように冷たくなる物質もたくさんあります。
日常で出会う場面
袋を破って水と粉を混ぜると急速に冷たくなる、スポーツ用の瞬間冷却パック
水に溶けながら自分で熱を出す塩化カルシウムの融雪剤(氷を溶かす主役は凝固点を下げる効果で、発熱はそれを手伝う役割です)
実験室で水酸化ナトリウムの粒を水に溶かすと、ビーカーが手で持てないほど熱くなる現象
つまり ひとことで
溶解熱とは、物質が溶媒に溶けるときに、結びつきが切れたり新しくできたりして出入りする熱エネルギーの合計です。