定義
カメラのレンズを通過した光が屈折することで、本来はまっすぐな直線が写真の端で曲がったり伸びたりして見える現象です。画面の中心から離れるほど像を結ぶ倍率が微妙に変化するために起こり、レンズの曲面形状や配置、絞りの位置といった光学設計によってその現れ方が変わります。
まっすぐな建物がなぜ丸く曲がってしまうの?
私たちが写真を撮るときに使うカメラのレンズは、平らな板ガラスではありません。光を中心へ集めてセンサーに届けるため、丸みを帯びた凸レンズや凹レンズを組み合わせています。そのため、画面の中心から離れるほど像を結ぶ倍率が微妙に狂ってしまうことがあります。レンズの曲面の形や配置、絞りの位置といった設計によって、その歪み具合が変わるのです。
スマートフォンの超広角カメラで部屋の中や高い建物を撮影してみると、この現象がよくわかります。写真の中央はまっすぐなのに、端にいくほど柱やドアの枠が外側へ樽のようにぷっくりと膨らんで見えます。この形がワイン樽に似ていることから、樽型歪曲(バレルディストーション)と呼ばれます。
逆に、遠くの被写体を引き寄せて撮る望遠レンズでは正反対の現象が起こります。画面の端にある直線が中心に向かってきゅっとくびれ、四隅が外側へ尖るように引っ張られた針山のような形になります。これを糸巻き型歪曲(ピンクッションディストーション)と呼びます。どちらも画面の位置によって倍率が変わってしまうことで起こる現象です。
もう少し正確に言うと
もう少し専門的に言えば、レンズの歪曲収差(ディストーション)とは、レンズの光学的な特性によって直線が曲がってしまう「幾何学的歪み」のことだけを指します。自撮りを顔の真正面から近づけて撮ったときに、鼻がやけに大きく見えて耳が小さく写ってしまうのは、レンズの欠陥ではありません。
物体がカメラに近いほど大きく、遠いほど小さく見えるのは、レンズに関係なく起こる自然な遠近法の原理です。これは「遠近歪み(パースペクティブの歪み)」と呼ばれ、レンズの構造によって起こる光学的な歪曲収差とはまったく別の概念です。遠近歪みは、カメラを少し離してズームで引き寄せて撮影すれば簡単に抑えられます。
本物の光学的な歪曲収差を物理的に抑えるには、非球面レンズをはじめとする何枚ものレンズを精巧に配置します。画面の中心部と周辺部で倍率が均一になるよう、つまり像が正しい位置に結ばれるように設計するのです。本格的なカメラレンズが大きく重くなってしまう大きな理由の1つがここにあります。
スマホはどうやって歪んだ写真をまっすぐに直しているの?
スマートフォンでも小さな非球面レンズを何枚も重ねていますが、本体の薄さという制約があるため、特に超広角カメラでは光学設計だけで歪みを完全に消し去ることは困難です。そのため、超広角カメラが捉えた素の画像(生データ)は、周辺部がかなり歪んでいます。それにもかかわらず私たちが撮った写真がまっすぐに見えるのは、デジタルの計算力のおかげです。
スマホの内部にある画像処理プロセッサ(ISP)は、シャッターが切られた瞬間に歪みをリアルタイムで計算します。レンズのクセに合わせて、歪んだ周辺部のピクセルをアルゴリズムによって引き伸ばしてまっすぐに補正しているのです。
Photoshopなどの編集ソフトで「レンズ補正」を適用しても同じように写真が補正されます。ただし、曲がった端を無理やり引き伸ばして整える仕組み上、写真の四隅の解像度がわずかに落ちたり、画面の端が少し切り取られて狭くなったりする点は避けられません。
よくある誤解
セルカを近くで撮って鼻が大きく写るのは、スマホカメラのレンズの歪みのせいだ。
近いものが大きく見えるのは自然な「遠近歪み(パースペクティブ)」です。レンズの構造的な要因で直線が曲がる光学的な歪曲収差とはまったく別の現象です。
日常で出会う場面
超広角カメラで建物を正面から撮影したとき、画面の端にある柱が弓のように外側へ曲がって見える現象です。
アクションカメラで撮影した旅の動画で、水平線がまるで地球儀のように丸く湾曲して映る様子です。
つまり ひとことで
画面の場所によって倍率が変わることで直線が曲がって見える光学現象であり、高度なレンズ設計やデジタル画像処理のアルゴリズムによって補正することができます。