定義
メンデルの遺伝の法則は、親の生物学的な特徴(形質)が子孫にどんな規則で伝わるのかを明らかにした、遺伝学の基本原理です。昔は親の特徴が絵の具のように混ざると考えられていましたが、メンデルは、遺伝情報は混ざらない独立した粒の単位で伝わることを突き止めました。
絵の具ではなく、ブロックを受け継ぎます
赤い絵の具と白い絵の具を混ぜるとピンク色になり、もう二度と元の赤や白には戻せません。昔の人は、遺伝もこれと同じで、親の特徴が子に絵の具のように混ざり合って伝わると信じていました。
ところが、オーストリアの修道士だったグレゴール・メンデルは、エンドウ豆を育てるなかで、まったく違う事実を見つけました。丸いエンドウ豆としわのあるエンドウ豆を交配させたところ、最初の子の世代では不思議なことに、すべて丸いエンドウ豆だけが生まれたのです。しわのある形という特徴は、すっかり消えてしまったように見えました。
ところが、この子どもたちをさらに交配させると、驚いたことに次の世代で消えていたしわのあるエンドウ豆がまた現れ、丸いものとしわのあるものが約3対1の割合で出てきました。見た目にはわからなくても、しわをつくる情報は消えずに隠れていたのです。このように、外に現れる特徴を顕性(優性)、隠れている特徴を潜性(劣性)と呼びます。遺伝因子はペアになっていて、生殖細胞をつくるときに分かれて入っていく――これが分離の法則です。
サイコロのように、別々に転がる形質たち
左手のコインと右手のサイコロを同時に投げると考えてみてください。左手のコインが表だったからといって、右手のサイコロで6が出ることに何の影響もありませんよね。二つの結果はまったく独立しています。
メンデルは、エンドウ豆の形(丸い・しわがある)と色(黄色・緑色)という二つの異なる特徴がいっしょに遺伝するとどうなるかを観察しました。その結果、豆が丸くてもしわがあっても関係なく、色はそれ自身の規則にしたがって、独立に黄色と緑色に分かれました。
このように、異なる二つ以上の形質はそれぞれ独立して伝わります。これを独立の法則と呼びます。親から受け継ぐたくさんの特徴が、それぞれサイコロのように独立して組み合わさるので、同じ両親から生まれたきょうだいでも、顔や身長、体質がそれぞれ違ってくるのです。
もう少し正確にいうと
もう少し正確にいうと、メンデルの法則が自然界のすべての遺伝を完全に説明できるわけではありません。メンデルが研究したエンドウ豆の七つの特徴は、たまたま互いに干渉しない、とてもシンプルで整った遺伝のしかたをしていたのです。
実際の生物には、赤い花と白い花が出会ってピンクの花になる中間遺伝や、人の身長や肌の色のように、とても多くの遺伝子が複雑にからみ合って働く多因子遺伝もたくさんあります。また、二つの遺伝子が同じ染色体上に並んでいるために、サイコロのように別々に分かれず、ひとまとまりでいっしょに遺伝する連鎖という現象もあります。
それでも、メンデルの発見の本当のすごさは、遺伝情報は消えない粒の単位で伝わるという本質を初めて見抜いたことにあります。親の遺伝子は、混ざって薄まってしまう液体ではなく、世代をとびこえて、いつでもそのままの姿でまた現れうる、はっきりした暗号のブロックだったのです。
よくある誤解
顕性(優性、Dominant)の形質は、潜性(劣性、Recessive)の形質よりも優れていて、すぐれた形質である。
顕性・潜性(優性・劣性)は、遺伝子がそろったときに、外見に先に現れるかどうか(優先的に表現されるか)を表す用語にすぎません。生物学的に優れているとか有利だとかいう価値判断の意味は、まったくありません。
日常で出会う場面
丸いエンドウ豆としわのあるエンドウ豆を交配したとき、子の第1世代で丸いエンドウ豆だけが現れる現象です。
両親がどちらもA型でも、それぞれが隠し持っていたO型の遺伝子が出会って、O型の子どもが生まれることがあります。
つまり ひとことで
親の遺伝子は絵の具のように混ざって消えるのではなく、レゴブロックのように独立した単位のまま保たれて、子孫に伝わります。