IT·テック

NCMバッテリー

個性の違う3つの金属がチームを組み、電気自動車を遠くまで走らせる力を生み出します。

定義

ニッケル、コバルト、マンガンの3つの金属がリチウムや酸素と結合した化合物を、正極(プラス極)の材料として使うバッテリーです。電気自動車(EV)をはじめ、さまざまな機器に幅広く使われています。3つの金属がそれぞれ役割を分担することで、蓄えられる電気の量と安全性を両立しています。3つの金属の頭文字を取って「NCM」と呼ばれます。

個性の違う3人がチームを組みました

学校で3人一組になって発表課題に取り組む場面を想像してみてください。アイデアを次々と出す人、意見がぶつかったときにうまくまとめる人、資料や備品を黙々と用意する人がいます。どれか1人だけでも良い発表にはなりません。

電気自動車のバッテリーの中にも、まさにそんな3人が入っています。バッテリーの正極(プラス極)材料として、ニッケル、コバルト、マンガンがリチウムと一緒に使われているのです。3つの金属を組み合わせていることから「三元系」とも呼ばれます。

それぞれの役割はとても明確です。ニッケルは、同じ重さでより多くの電気を蓄えられるようにするアイデア担当です。コバルトは、充電と放電を繰り返しても材料の構造が壊れないよう支えるまとめ役担当です。

そしてマンガンは、価格が手頃でありながら骨組みをしっかり支える備品担当です。3つの金属がお互いの弱点を補い合う組み合わせだからこそ、1つの金属だけでは出せない優れた性能を発揮できるのです。

ニッケルを増やすと何が変わるのでしょうか?

グループワークでアイデア担当の意見ばかりを極端に増やすとどうなるでしょうか? 発表内容は華やかになりますが、意見をまとめる人が足りなくなってチームが空中分解しやすくなります。バッテリーでも全く同じバランス取りが行われています。

3つの金属のうち、ニッケルの割合を大幅に高めたものをハイニッケルと呼びます。ニッケルが8、コバルトが1、マンガンが1前後の比率がその代表例です。同じ重さで蓄えられる電気の量が増えるため、1回の充電で走れる航続距離がグッと伸びます。

その代わり、材料の構造が脆くなって熱に弱くなり、充放電を繰り返すうちに性能が早く落ちてしまうリスクがあります。そのため、粒子の表面を薄くコーティングしたり、製造時の湿度を厳密に管理したりと、製造工程の手間が大幅に増えます。

また、コバルトは価格が高く調達も難しいため、できるだけ減らしたいのが本音です。しかし減らしすぎるとまとめ役がいなくなるようなものなので、どこまで減らして安定を保つかが技術の大きな見せ所になります。

もう少し正確にお話しすると

もう少し正確にお伝えすると、この3つの金属がバッテリーの内部全体を埋め尽くしているわけではありません。3つの金属が含まれているのは、あくまでバッテリーの正極(プラス極)材料です。リチウムが正極と負極の間を行き来し、両側を行ったり来たりしています。グループワークに例えるなら、3人はチーム全体ではなく、正極という片側のメンバーに過ぎません。

反対側の負極(マイナス極)材料には、一般的に黒鉛(グラファイト)が使われます。これに、リチウムが行き来する通り道となる電解液と、プラスとマイナスが直接触れてショートしないように遮る薄いセパレータ(絶縁膜)が加わって、ようやく1つのバッテリーが完成します。

また、ニッケルやコバルトの代わりに鉄とリン酸を使うバッテリー(LFP)も広く普及しています。同じ重さで蓄えられる電気の量が少ないため航続距離は短めですが、安価で熱に強いのが大きな強みです。

そのため、どちらが絶対に優れているとは一概には言えません。長距離を走ることが重要な車には3つの金属の組み合わせを、価格の安さや長寿命を重視する車には別の組み合わせを選ぶ、というように使い分けられています。

よくある誤解

誤解

NCMバッテリーはニッケル、コバルト、マンガンだけでできている。

事実

3つの金属はリチウムや酸素と結合して化合物を形成し、正極(プラス極)の材料になります。反対側の負極には主に黒鉛が使われ、リチウムの通り道となる電解液やセパレータ(絶縁膜)が揃って初めてバッテリーになります。

誤解

ニッケルを増やすほど、常に優れたバッテリーになる。

事実

ニッケルを増やせば同じ重さで蓄えられる電気の量は増えます。しかし、その分構造が脆くなって熱に弱くなり、製造工程がはるかに難しくなるというデメリットも伴います。

日常で出会う場面

  1. 電気自動車を選ぶ際、「1回の充電で長く走れる」とアピールされているモデルには、ニッケルの比率を高めたハイニッケルバッテリーが採用されているケースが多く見られます。

  2. 電動キックボードや電動工具、一部のノートパソコンなど、軽さと長時間の駆動が求められる機器にも同じ系統のバッテリーが使われています。

つまり ひとことで

ニッケル、コバルト、マンガンの3人がチームを組み、遠くまで走るパワーと安定した安全性を両立させたバッテリーです。

この概念が登場するストーリー

作成 2025-12-11 更新 2026-10-12 検証 2026-10-12