定義
ネットワーク機器どうしが誤って輪っか状につながってしまい、データの信号が行き先を見つけられないまま、延々と回り続ける現象です。閉じ込められたデータは雪だるまのようにあっという間に増え、そのネットワーク全体をたちまち麻痺させてしまいます。
出口のないロータリーに閉じ込められた車たち
カラオケでマイクをスピーカーのすぐ前に近づけると、耳をつんざくような「キーン」という音が鳴りますよね。スピーカーから出た音がマイクに入り、その音がまたスピーカーから出て増幅される、という流れが一瞬のうちに無限に繰り返されるからです。これを音のハウリングといいます。
コンピューターネットワークの世界でも、これとそっくりな騒ぎが起こります。オフィスや学校では、インターネットの信号を分配するスイッチ(コンピューターどうしをつなぐ通信の分配装置)を何台も設置して使うので、配線が複雑に絡み合いがちです。そんなとき、誰かが2台の機器のあいだにLANケーブルを2本つないでしまったり、自分自身にケーブルを挿し戻してしまったりするミスが起こることがあります。
すると、通信の通り道に、出口のない丸いロータリーができあがります。データの信号は外に出られないまま、機器のあいだをものすごい勢いでぐるぐる回り始めます。このように、データが閉じた輪の中に閉じ込められて永遠に巡り続ける状態を、ネットワークループと呼びます。
もう少し正確にいうと
データがただ回っているだけなのに、なぜインターネット全体が止まってしまうのでしょうか。そこには、ネットワーク通信ならではの独特なルールが2つ隠れています。
ひとつめは、ふつうのウェブ閲覧のデータと違って、構内通信網(LAN)の基本的な信号には、寿命(TTL、Time To Live)という考え方がないことです。インターネット上のデータには、たいてい中継できる回数の上限があり、寿命が尽きれば自然に消えます。ところが、スイッチのあいだを行き来する基本的なデータは、強制的に電源を切るかケーブルを抜くまで、回り続けることができます。
ふたつめは、ネットワークスイッチが、最初から全員に知らせる信号(ブロードキャスト)や、行き先がまだわからない信号を受け取ると、つながっているすべての通路に同じコピーをどんどんばらまくことです。ループができた通り道では、たくさんのコピーが互いに尾を追いかけるように転送され続けて、わずか数秒で何百万個ものごみデータが生まれます。
これがブロードキャストストームです。高速道路全体が迷子のお化け車でぎっしり埋まってしまい、本当に大切な通信は一歩も前に進めなくなる、というわけです。
麻痺を防いでくれる賢い信号機
では、ネットワークのケーブルを絶対に輪にしなければ、すべて解決するのでしょうか。意外なことに、大きな企業やサーバールームでは、インターネットが途切れないように、わざとケーブルを輪っか状につないでおきます。ふだん使っているメインの回線が切れても、予備の回線に信号を流せるようにするためです。
ループ事故を防ぎながら、予備の道も安全に使えるように、エンジニアたちはスパニングツリープロトコル(STP)という賢い技術を生み出しました。STPは、ネットワーク機器どうしが自分たちで会話を交わして、全体の接続マップを描けるようにするためのルールです。
機器は、自分たちのあいだに輪ができているのを見つけると、予備の道のどれかをソフトウェアの働きで「一時的にふさいで」おきます。ふだんは機器のあいだの道を1本だけにしてループを根本から防ぎ、メインの通り道で断線事故が起きたら、ふさいでおいた道をふたたび開きます。ただし、最初に作られたSTPは道を開き直すのに30秒ほどかかったため、最近は1秒前後まで速くなったRSTPのような改良版が主に使われています。おかげで私たちは、通信網が丸ごと止まることなく、安定してインターネットを使えるのです。
よくある誤解
ネットワークループは、ハッカーによる高度なサイバー攻撃が原因でしか起こらない。
ほとんどは、席替えや掃除のときにLANケーブルをうっかり誤って挿したり、ハブ機器の設定を忘れたりといった、単純な物理的管理ミスで起こります。
日常で出会う場面
オフィスの床に転がっていたLANケーブルの両端を同じスイッチングハブに挿したら、オフィス全体のWi-Fiとインターネットが止まりました。
ネットワークの故障に備えてスイッチのあいだに予備のLANケーブルをつないでおいたものの、ループ防止機能(STP)がオフになっていたため、つないだ途端に通信が固まってしまいました。
つまり ひとことで
ネットワーク機器が輪っか状につながって、データが無限に回り続け、通信網全体を麻痺させてしまう現象です。