定義
異なる2つの水溶液(水に溶かした液体)を混ぜたとき、水にほとんど溶けない固体の粒ができて底に沈む化学反応です。目に見えないほど小さくバラバラに散らばっていたイオンが、特別な相手と出会って集まり、固体のかたまり(沈殿)に変身する現象です。
透明だった水が、あっという間に白く濁ります
透明な食塩水と透明な硝酸銀水溶液を1つのビーカーに混ぜると、うそのように乳白色の粉がふわふわと現れます。手品のように見えますが、水の中で目に見えず自由に泳いでいた銀イオンと塩化物イオンが、強く引き合って集まった結果です。
もともと食塩や硝酸銀のような物質は、水に入ると陽イオンと陰イオンに分かれて、水分子の間におとなしく隠れています。ところが、あるイオンたちは水分子と仲よくするより、お互いにくっついている状態のほうがずっと好きなのです。そのため水分子を押しのけて、強く結びついた固体をつくります。
こうして水に溶けずに底へ沈む固体の粒を「沈殿」と呼びます。液体が急に白く濁って見えるのは、とても小さな沈殿の粒がたくさんビーカーの中で光を四方八方に散らすからです。
じっと時間を置いて待ってみると、漂っていた固体の粒がだんだん重さに耐えられなくなってビーカーの底に白く沈み、透き通った上澄み液と分かれていく様子が見られます。
もう少し正確に言うと:どのイオンでも沈殿になるわけではありません
水溶液の中でイオンが出会えば必ず沈殿ができる、というわけではありません。あるイオンたちは、水分子に囲まれている状態のほうがずっと居心地がよく、どれだけ長く混ぜておいても最後まで透明なまま溶けています。
たとえばナトリウムイオンや硝酸イオンは、ほかのイオンとくっつくより水分子に囲まれているほうが安定なので、たいてい水に溶けたままでいる代表的な存在です。一方、銀イオンと塩化物イオン、あるいはカルシウムイオンと炭酸イオンのような組み合わせは、性質がまったく違います。
このペアたちは、水との引き合いよりもお互いに引き合う力が圧倒的に強いので、出会うとしっかりつかまえ合って、なかなか離れません。
化学では、これを物質ごとに決まっている「溶解度(水への溶けやすさ)」の違いで説明します。水に溶ける限界(溶解度)がとても低いイオンのペアが、その限界を超える量で出会うと、あふれた分が水の外へはじき出されるように沈殿になります。だから同じペアでも、とても薄めて混ぜると沈殿ができないこともあります。
身のまわりや暮らしの中でも出会えます
沈殿反応は、実験室の外の自然や私たちの日常の中でも絶えず起きています。大きな鍾乳洞の天井から下がる尖った鍾乳石と、床から伸びる石筍は、自然がつくった沈殿の代表的な作品です。二酸化炭素をふくんだ地下水が石灰岩を溶かしてカルシウムを運び、洞窟の天井で二酸化炭素が空気中へ抜けるときに、炭酸カルシウムが再び固まって少しずつ積み重なったものです。
病院で胃の検診(バリウム検査)を受けるときに飲む白い液体(バリウム懸濁液)も、沈殿の性質をうまく利用した例です。硫酸バリウムは水や強い胃酸にもほとんど溶けない沈殿なので、体の中にほとんど吸収されず安全に排出され、X線をはっきり遮って臓器の形を写真に鮮明に写し出してくれます。
また、水道水にまじっているかもしれない有害な重金属を見つけたり、工場から出る排水をきれいにしたりするときにも、沈殿反応が使われます。重金属イオンと結びついて沈殿をつくる物質を加えて底に沈め、固体だけをこし取れば、きれいな水だけを残せるからです。
よくある誤解
透明な水溶液を2つ混ぜれば、いつも沈殿ができる。
水によく溶ける性質のイオンの組み合わせ(ナトリウム、カリウム、硝酸イオンなど)は、混ぜても沈殿をつくりません。お互いを引き寄せる力が水との結びつきよりずっと強い、特定のイオンのペアが出会ったときだけ沈殿ができます。
日常で出会う場面
石灰水に息を吹き込むと、二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムの沈殿ができ、白く濁ります。
貝やニワトリは体の中でカルシウムイオンと炭酸イオンを結びつけ、水に溶けにくい炭酸カルシウムをつくって、丈夫な殻を築きます。
つまり ひとことで
水に溶けていた特定のイオンが出会い、水に溶けない固体の粒として結びついて沈む反応です。