定義
イオン結合とは、電子を失いやすい原子と電子を受け取りやすい原子が電子をやりとりし、プラス(+)とマイナス(-)の電気を帯びて強く引き合うことでできる化学結合です。食塩のように身の回りでよく見かける硬い結晶は、この結合でできています。
電子をやりとりして、磁石のようになる
両手に重い荷物を抱えた人と、手ぶらの人が道で出会ったと想像してみてください。荷物を渡せば、二人ともぐっと身軽で楽になりますよね。原子の世界でも、これとそっくりなことが起こります。
原子には、いちばん外側の殻に電子を8個そろえて安定したがる性質があります。化学ではこれをオクテット則と呼びます。ナトリウムのような金属原子は、余っている電子1個を手放したほうがずっと楽で、塩素のような非金属原子は、足りない電子1個を受け取ったほうがずっと楽です。そこでナトリウムは、未練なく塩素に電子を渡します。
電子を手放したナトリウムはプラス(+)の電気を帯びた陽イオンに、電子を受け取った塩素はマイナス(-)の電気を帯びた陰イオンになります。こうして正反対の電気を帯びた二つの粒子は、静電気的な引力という強い力で、磁石のようにカチッとくっつきます。
ただし、ナトリウムから電子を引き離すには、じつはエネルギーが必要です。それでもこの取引が成り立つのは、できた陽イオンと陰イオンが強く引き合って、大きなエネルギーを放出するからです。この力のおかげで、二つの間には離したくても離せない強固な結合ができます。
硬いのに、衝撃を受けるとパキッと割れる理由
イオン結合でできた物質は、互いを引き寄せる力がとても強いので、融点が非常に高く、常温では硬い固体として存在します。毎日食卓で出会う食塩の結晶が、ちょっとやそっとの暑さでは絶対に溶けないのは、このためです。
ところが、これほど硬い塩の粒も、金づちでコンと叩くと、あっけなくバラバラに砕けます。外から力が加わると、イオンの層が横に1つ分ずれてしまうからです。すると、プラスの隣にプラスが、マイナスの隣にマイナスが並ぶことになります。同じ極どうしが向き合った途端に互いを退ける反発力が働いて、結晶は一瞬で真っ二つに割れてしまうのです。
また、イオン結合の物質には、電気を通すという独特の性質があります。固体のときは、陽イオンと陰イオンがお互いをがっちり捕まえているので、電気はまったく通りません。
ところが、この結晶を水に溶かしたり、高い熱で溶かして液体にしたりすると、事情はがらりと変わります。足かせから解き放たれたイオンが自由に動き回り、電気を運ぶ伝導体になるのです。
もう少し正確にいうと:食塩は分子ではありません
食塩は化学式で「NaCl」と書くので、ナトリウム1個と塩素1個が手をつないだ、独立したペアを思い浮かべがちです。水や二酸化炭素のように、決まった個数の原子がペアになって単独でふわふわ漂うひとかたまりを、分子と呼ぶからです。
もう少し正確にいうと、固体のイオン結合の物質は、独立した分子としては存在しません。数えきれないほど多く(食塩ひと粒には100京個以上も)の陽イオンと陰イオンが、四方八方に交互に並んで立体的な網を編んだ、巨大な結晶格子構造になっています。
食塩ひと粒の中には、無数のナトリウムと塩素が3次元でびっしりつながっているだけで、「ここからここまでが食塩ひとかたまり」と切り分けられる独立した粒はありません。
ですから、NaClという表記は分子そのものの名前ではなく、その巨大な結晶の網の中にナトリウムと塩素が1対1の割合で入っていることを示す、いちばん簡単な比率の表示なのです。
よくある誤解
食塩(NaCl)の粒は、ナトリウム原子1個と塩素原子1個が結びついた、たった1つの分子である。
イオン結合の物質は独立した分子ではなく、たくさんの陽イオンと陰イオンが果てしなくつながって3次元の格子をつくる結晶です。NaClは、構成の比率が1対1だという意味です。
日常で出会う場面
料理の味つけに使う白い食卓塩(塩化ナトリウム)
冬、雪が積もった道路の雪を溶かすためにまく融雪剤(塩化カルシウム)
チョークや貝殻の主成分である炭酸カルシウム
つまり ひとことで
イオン結合とは、電子をやりとりしてできた陽イオンと陰イオンが、静電気的な引力で硬い格子状の結晶をつくる結合です。