定義
クラッチは、止まることなく回り続けるエンジンの回転力をタイヤに伝えたり、安全に切り離したりする動力伝達装置です。エンジンを止めなくても車をなめらかに停止させたり、スピードに合わせてギアを変えたりできるよう、橋渡し役を務めます。
なぜ回るエンジンとタイヤの間にクラッチが必要なのでしょうか?
高速で動いているランニングマシンの横に立っていた人が、いきなり片足をポンと乗せる場面を想像してみてください。足が触れた瞬間に大きくよろけて、転んでしまいますよね。車のエンジンとタイヤの間でも、これと同じ衝撃が起こりえます。
車のエンジンは、かかっている間はある程度以上の速さで回り続けていないと、自分で止まってしまいます。一方でタイヤは、信号の前で完全に止まることもあれば、ゆっくり転がることもあります。
もしエンジンとタイヤが一本の鉄の棒で隙間なくつながっていたらどうなるでしょう。タイヤが止まると回っていたエンジンも無理やり止められて、エンジンがストンと止まってしまいます。逆に、止まっている車を発進させるときも、エンジンの力が一気にドンと伝わって、部品が壊れかねません。
だからエンジンは回したままにしておいて、タイヤへ向かう力の流れだけを自由に操れる必要があります。クラッチは、この二つの間でエンジンとタイヤのつながりをいったん切り離す、欠かせない分離装置です。
手のひらをこすり合わせるように速さを合わせる、摩擦の原理
クラッチの核心は、両方の手のひらを合わせてこすったときの摩擦力(物がふれ合って動きをさまたげる力)にあります。速く回っている一方の手のひらに、止まっていたもう一方の手のひらをそっと当てると、最初はすべって熱が出ますが、だんだん二つの手が同じ速さで回るようになりますよね。
車の中のクラッチ部品も、これとよく似ています。エンジンにつながって速く回る円盤と、タイヤへ続くトランスミッション側についた円盤が、向かい合っています。この円盤の表面には、おたがいをしっかりつかんですべりにくくしつつ、熱にも強い特殊な摩擦材が貼られています。
ドライバーがペダルから足を離すと、強力なバネが二つの円盤をぎゅっと押し合わせます。このとき足をゆっくり離すと、二つの円盤が少しすべりながら、摩擦力を使って少しずつ回転の速さをそろえていく状態になります。これがいわゆる「半クラッチ」です。おかげで車は前へ飛び出さず、なめらかにすべるように発進できます。
もう少し正確に言うと: マニュアルからオートまで
クラッチと聞くと、運転席の足もとにある三つ目のペダルを思い浮かべがちです。でもペダルは、ドライバーがクラッチの円盤を引き離せるように力を伝えるスイッチにすぎません。
今の乗用車の大半を占めるオートマ車には、クラッチペダルそのものがありません。かといってクラッチの働きがなくなったわけではありません。オートマの中では、オイルの渦の力でなめらかに動力を受け渡す「トルクコンバーター」や、コンピューターが電気信号で円盤を一瞬のうちに離したりつないだりする精密なしくみが、代わりに働いています。
クラッチは車だけでなく、電動ドライバーや工場の機械でも広く使われています。ネジが奥まで入って決まった力以上がかかると空回りさせて、ネジと機械を守る装置も、クラッチの原理です。つまりクラッチの本質は、機械に無理がかからないよう二つの軸のあいだの動力を精密にコントロールして、力を分けたり合わせたりすることにあります。
よくある誤解
クラッチペダルを踏むと、エンジンとタイヤがつながる。
ペダルを踏むとバネの力を押しのけて二枚の円盤が「離れ(動力が切れ)」、ペダルから足を離してはじめて二枚の円盤がしっかり噛み合って「つながり」ます。
日常で出会う場面
マニュアル車は、信号待ちで止まるときにエンストしないよう、クラッチペダルを踏んで動力を切ります。
電動ドリルでネジを締めていくと、奥まで入ったところで「ガガガ」と音を立てて空回りし、ネジを締めすぎたりネジ頭をつぶしたりするのを防いでくれます。
つまり ひとことで
クラッチは、回り続けるエンジンと止まったタイヤの間で摩擦力を調整し、動力をなめらかにつないだり切ったりする装置です。