定義
二つの物体の表面が触れ合ったまま動こうとしたり、すべったりするときに、その動きを妨げる反対向きの力です。この目に見えない力のおかげで、私たちはすべらずに歩いたり走ったりできますし、猛スピードで走る自動車もその場に安全に止まれます。
なぜ物体は進んでいるうちに自然に止まるのでしょう?
どんなにツルツルに見えるスマートフォンの画面や窓ガラスでも、顕微鏡で大きく拡大すると、ゴツゴツした山脈のように盛り上がっています。二つの物体が触れ合うと、この微細な凹凸(でこぼこの出っ張りとくぼみ)が、歯車のようにがっちり噛み合います。
このとき、一方の物体を押して前に進めるには、噛み合った凹凸を壊すか、乗り越えなければなりません。その過程で、物体の動きを妨げる接触面のブレーキの力が生まれます。これが摩擦力です。
摩擦力は、物体の進む方向ではなく、触れ合った二つの面がすべろうとする方向とは逆向きにはたらきます。氷の上をすべるそりや、床の上を押してすべらせた箱は、床をこすって進む分だけ後ろ向きの力を受け、だんだん止まります。逆に歩くときは、足の裏が地面を後ろに押すので、摩擦力はむしろ私たちを前に押し出してくれます。
動き出すときと動いているときで、力が違います
部屋の隅に置かれた重い本棚や冷蔵庫を、実際に押してみたことはありますか?止まっているものを最初に動かすときは全身の力を振りしぼらないといけませんが、いったん動き出すと、最初よりずっと少ない力でスッと動きます。
物理学では、止まっている物体を押すときに踏ん張る力を「静止摩擦力」、すでにすべっている物体にはたらく力を「動摩擦力」と呼びます。物体が静止しているあいだは、触れ合った凹凸がすき間の奥深くまで沈み込んでしっかり噛み合っているので、動き出す瞬間に踏ん張る力がいちばん大きくなります。
一方、物体が一定の速さで動き始めると、表面の凹凸は深く噛み合う時間もないまま、互いの頭の上をさっと通り過ぎていきます。そのため、動いているあいだに受ける摩擦力は、動き出すときに越えなければならなかった壁よりも小さくなるのです。
もう少し正確にいうと
常識的に考えると、物体が床に触れる面積が広いほど、摩擦力もずっと大きくなりそうです。たとえばレンガを寝かせて押すほうが、立てて押すより重たく感じるでしょう。けれども、もう少し正確にいうと、固体どうしの摩擦力の大きさは接触する面積の広さとは関係がありません。
接触面積が広がると、全体の重さが広い面に分散されて床を押す圧力が弱まり、面積が狭くなると、狭い部分に重さが集中してより強く押しつけられます。結局、顕微鏡レベルで実際に触れ合って絡み合う「本当の微視的な接触面積」の合計は、どちらの場合もほぼ同じになります。
さらに、とても滑らかな金属の面を二枚、真空中で完全に密着するように押しつけると、凹凸がなくても互いに強くくっつきます。摩擦力は、ざらざらした表面が物理的に引っかかる現象だけでなく、原子や分子のレベルで引き合う電気的な引力もあわさった結果だからです。ただし、タイヤのゴムのようにやわらかい物質はこの規則から外れ、接触面積の影響を受けることもあります。
よくある誤解
物体が床に触れる面積が広いほど、摩擦力は必ず大きくなる。
硬い固体どうしの摩擦力は、見かけの接触面積の広さとほとんど関係がありません。床を垂直に押す力と、二つの面の材質・状態によっておおよそ決まります。
摩擦力はエネルギーを無駄にして、物体の動きを妨げるだけの不要な力だ。
摩擦力がなければ、私たちは地面を踏んで前に歩くこともできず、鉛筆で字を書くこともできず、服を縫う糸も結び目がほどけてしまいます。
日常で出会う場面
雪道に砂をまいて地面をざらざらにし、自動車がすべりにくいようにします(塩化カルシウムは氷をとかす側で役立ちます)。
靴底の深いゴムの溝は、地面との摩擦を適度に保ってすべりを防ぎます。
自動車のブレーキパッドが回転するディスクを強く押さえつけ、摩擦力で車を止めます。
つまり ひとことで
摩擦力は、接触面の微細な凹凸と原子間の引力によって動きを妨げる力で、歩く・止まるといった日常の動作を可能にしてくれます。