定義
動いている物体はそのまま動き続けようとし、止まっている物体はそのまま止まり続けようとする性質のことです。外から力が加わらないかぎり、あらゆる物体は今の運動の状態をそのまま保とうとして頑張ります。
走るバスが急ブレーキをかけるとどうなる?
バスに乗っているときに急ブレーキがかかると、体が前に持っていかれますよね。反対に、止まっていたバスが急に発進すると、体は後ろに反り返ります。倒れまいとして自分から力を入れているわけでもないのに、こうした現象は自然に起こります。
理由はとてもシンプルです。バスと一緒に前へ進んでいた私の体は、バスが止まった後も、そのまま前へ進み続けようとするからです。足はバスの床に接しているのでバスと一緒に止まりますが、上半身はそれまでの道をそのまま進もうとするため、前へ傾くのです。
シートベルトを締めなければならない理由もここにあります。車が壁にぶつかって止まっても、車内の人は車が走っていた速度のまま前へ飛び出そうとします。このとき、シートベルトが外からの力となって、体を無理やり止めてくれるのです。
重いほど頑固になる
転がってくるサッカーボールなら足で簡単に止められますが、同じ速さで転がってくる巨大なトラックは手では止められません。物体の質量が大きいほど、自分の運動の状態を保とうとする性質も大きくなるからです。
物理学では、質量を単なる「物質の量」としてだけでなく、「慣性の大きさを表す尺度」として説明することもあります。軽い空のベビーカーは簡単に押せて簡単に止められますが、重い荷物をぎっしり積んだ台車は、動かし始めるときにも力がたくさん必要で、止めるときにも大きな力がいります。
重さを感じない宇宙船の中でも、この原理はまったく同じように当てはまります。ふわふわ浮いている巨大な岩は、軽く押せば動きますが、速度はとてもゆっくりとしかつきません。速く動かすには大きな力を長い時間かけ続ける必要があり、いったん動き出した岩は、ほかの力に邪魔されないかぎり、その速度のまま進み続けます。ちなみに、宇宙船の中で体重を感じないのは、重力がないからではなく、宇宙船と人がいっしょに落下し続けているからです。
もう少し正確にいうと
日常生活では、床に転がしたボールは少し進むと勝手に止まってしまうように見えます。そのため、昔の人は「物体はもともと止まろうとする性質があり、動き続けるには力を加え続けなければならない」と誤解していました。
しかし、ボールが止まる本当の理由は、慣性がなくなったからではありません。床との摩擦力や空気抵抗という「外からの力」が、絶えずボールの邪魔をしているからです。もし摩擦も空気抵抗もなく、引っ張る重力のようなほかの力も一切なければ、一度投げたボールは永遠に同じ速度でまっすぐ飛び続けます。
つまり、慣性は物体を動かす「力」ではなく、外からの干渉がないときに元の状態を保とうとする、物体の「固有の性質」なのです。これをガリレイとニュートンが明らかにし、「運動の第1法則」としてまとめました。
よくある誤解
慣性は、物体をそのまま前へ押し進めてくれる力である。
慣性は力ではなく、物体がもっている「性質」です。物体を動かし続けるために後ろから押す力が働いているのではなく、邪魔する力がないので、元の運動の状態がそのまま保たれているだけです。
日常で出会う場面
ハンマーの頭がゆるんできたら、柄の端を地面にトンと打ちつけます。すると頭が慣性で下へ動き、柄にしっかりはまります。
ほこりのついた布団を棒でたたくと、布団は動きますが、ほこりはその場にとどまろうとするので、布団から離れて落ちます。
トイレットペーパーをゆっくり引くとスルスルと出てきますが、パッと素早く引くと、ロールの慣性のおかげで紙だけがスッと切れます。
つまり ひとことで
すべての物体は、外から力を受けないかぎり、今の運動の状態を永遠に保とうとする固有の性質(慣性)をもっています。