科学

電磁誘導

磁石を動かすだけで、導線の中で眠っていた電気がパッと目覚めて流れ出す、魔法のような現象です。

  • 約4分
  • 図 1点
  • 2026-10-12 検証

定義

電磁誘導(でんじゆうどう)とは、磁石の周りの磁場(磁界)が変化するときに導線に電圧(誘導起電力)が生じ、回路がつながっていれば電流が流れる物理現象です。電池がなくても、磁石を動かす運動エネルギーを電気エネルギーに変えることができ、電磁石の電流を変えて磁場を変化させても同じ現象が起こります。

磁石を動かしただけなのに明かりがつく?

ぐるぐると巻いた銅線(コイル)のそばに磁石を静かに置いておくだけでは、何も起こりません。ところが、磁石をコイルの中にサッと差し込んだ瞬間、つないでおいた豆電球がピカッと光ります。差し込んだ磁石を外へ引き抜くときにも、豆電球は再びパッと明かりを灯します。

面白いのは、磁石をコイルの真ん中でピタッと止めておくと、豆電球がすぐに消えてしまうことです。電気が生まれるためには、磁石がただコイルのそばにあるだけでは足りません。磁場(磁界)の変化が絶えず起きることで、初めて導線の中に電気が流れるのです。

このように、磁石やコイルが動いて周りの磁場が変化するときに導線へ流れる電気を「誘導電流」と呼びます。乾電池の化学エネルギーを使わなくても、動かすエネルギー(力学的エネルギー)を電気エネルギーへと変えられる不思議な仕組みです。

磁石をより速く動かしたり、もっと強い磁石を使ったりすると、電球の光はぐんと明るくなります。磁場がより速く、より大きく変化するほど、電子を押し出す力(誘導起電力)が大きくなり、たくさんの電流が流れるからです。

自然界のあまのじゃく? レンツの法則

それでは、誘導電流はどちらの向きに流れるのでしょうか。自然界には、変化を嫌って今の状態を保とうとする「あまのじゃく」のような性質があります。磁石のN極を近づけると、コイルはそれを押し戻そうとして、磁石が近づく側の端にN極を作って反発します。

逆に、中に入ったN極の磁石を外へ引き抜こうとすると、今度は「行かないで」とばかりに引き留めるよう、磁石側にS極を作って引っ張ります。このように、磁束(磁力線の束)の変化を妨げる向きに誘導電流が生じる決まりを「レンツの法則」と呼びます。

磁石を差し込むには、コイルが押し返す力に逆らってグッと手を押し込まなければなりません。磁石を抜くときも、コイルが引き留めようとする力を振り切って引っ張る必要があります。このとき、私たちが手で加えた力と仕事が、そのまま電気エネルギーへと姿を変えているのです。

もし自然界が変化を大歓迎して、磁石を勝手に引き寄せてくれたとしたら、指一本動かさずに無限の電気が手に入ることになってしまいます。しかし自然界にはタダ飯はありません。力を注いだ分だけ、きっちり電気として返してくれるのです。

もう少し詳しく:文明を動かす巨大な発電機

今日、都市を照らす水力・火力・風力・原子力発電所の発電機も、すべてこの原理で電気を作っています。流れ落ちる水や激しい風、高温の蒸気がタービンを回すと、タービンにつながれた磁石(大型の発電機では主に電磁石)がコイルの中で休むことなく回転し、大量の電流を生み出し続けます。

物理学では、ある面を通り抜ける磁場の総量を「磁束(じそく)」と呼びます。コイルを貫く磁束の時間変化の割合が大きいほど、より高い電圧(誘導起電力)が発生します。これを「ファラデーの電磁誘導の法則」といいます。

電磁誘導は発電所だけでなく、日々の暮らしの至るところに隠れています。置くだけでケーブルなしに充電できるスマホのワイヤレス充電や、キッチンのIHクッキングヒーターが代表例です。これらの機器では、磁石を直接動かす代わりに、コイルに交流電流を流して磁場の向きと強さを目まぐるしく変化させています。改札機に交通系ICカード(SuicaやPASMOなど)をタッチするときも、カード内のコイルに一瞬だけ誘導電流が流れて情報をやり取りしています。

19世紀の科学者マイケル・ファラデーが発見したこの現象は、人類の夜を明るく照らしました。目に見えない磁場の揺らめきが、現代のハイテク社会という巨大な体をめぐる電気エネルギーを、今この瞬間も送り届けているのです。

よくある誤解

誤解

磁石をコイルの中に入れておくだけで、ずっと電気が流れ続ける。

事実

磁石が静止していると磁場の変化が起きないため、電気は流れません。磁石やコイルを動かし続けるか、電磁石の電流を切り替えて磁場を変化させ続けなければ電流は流れません。ワイヤレス充電や変圧器(トランス)は、物理的な動きなしにこの電流の変化を利用しています。

日常で出会う場面

  1. 自転車の車輪が回ると磁石が回転してライトを点灯させる自転車用ダイナモ(発電ランプ)

  2. 充電パッドの上に置くだけでケーブルなしにバッテリーを充電できるスマホのワイヤレス給電(Qiなど)

  3. 改札機や端末に交通系ICカードをかざした瞬間、内蔵コイルにわずかな電力が生じて決済される仕組み

つまり ひとことで

コイルを貫く磁場が変化するとき(磁石やコイルの運動、または電磁石の電流の変化など)に電気が生まれる現象のことです。

作成 2025-09-21 更新 2026-10-12 検証 2026-10-12