定義
ワイヤレス充電とは、ケーブルのプラグを機器に直接差し込まず、充電パッドと機器の間につくられる磁場を通して、電気エネルギーを無線で伝える技術です。スマートフォンやワイヤレスイヤホンをパッドの上にぽんと置くだけでバッテリーが満たされていく、手軽さがあります。
目に見えない磁場の橋
音叉を1本「キーン」と鳴らして、そばに別の音叉を近づけると、直接触れていないのに隣の音叉がひとりでにぶるぶる震えはじめます。ワイヤレス充電もこれとよく似ていて、直接触れなくても、目に見えない磁場を使ってエネルギーを向こう側へ伝えます。
充電パッドの中には、銅線をくるくると丸く巻いたコイルという部品が入っています。パッドがコンセントから電気を受け取ると、コイルのまわりに目に見えない磁場の波がすばやくつくられます。この磁場は空気中をおだやかに広がって、スマートフォンの底に届きます。
スマートフォンの背面の内側にも、パッドとそっくりな丸い受信コイルが隠れています。パッドから出た磁場の波がスマートフォン内部のコイルを通り抜けて揺らすと、スマートフォンのコイルにふたたびビリビリと電流が誘導されて流れ出します。
こうして新しくつくられた電気がバッテリーへ流れ込み、少しずつ充電されていきます。ケーブルという物理的な橋がなくても、磁場が空気中に目に見えない仮想の橋を架けて、電気エネルギーをそっと届けてくれるわけです。
もう少し正確に言うと: 電磁誘導
この現象を、物理学では電磁誘導の法則と呼びます。19世紀の科学者ファラデーが発見した原理で、磁石や磁場の強さが変化する場所に導線が置かれていると、導線の中の電子が押し動かされて、電流がひとりでに発生する現象です。
私たちが日常で使っているスマートフォンのワイヤレス充電器の大半(Qi規格)は、この電磁誘導方式を使っています。ただしこの方式には、充電パッドのコイルとスマートフォンのコイルが数ミリ以内のごく近い距離で、正確に向かい合ってはじめて働くという、はっきりした限界があります。
スマートフォンがパッドの真ん中から少しずれたり離れたりすると、磁場の波があらぬ方向に散らばって、充電効率がどんと落ちてしまいます。そこで最近は、スマートフォンの背面に丸い磁石をつけて位置をぴたりと合わせる技術が広く使われはじめたのです。
さらに科学者たちは、少し離れた距離でも充電できる「磁界共振方式」を開発しています。2つのコイルの振動数を同じ周波数に合わせてエネルギーを渡す原理で、パッドから数センチ離れていても充電できるようになります。部屋のどこにいても充電される遠距離のワイヤレス充電は、まだ研究段階です。
なぜ有線充電より熱くて遅いのでしょう?
ワイヤレス充電を使っていると、スマートフォンの背面がふだんよりずいぶん温かくなることに気づきます。ケーブルという専用の高速道路をまっすぐ走る代わりに、電気をいったん磁場に変えてからまた電気に戻す過程で、コイルや回路で一部が熱エネルギーとして失われるためです。
エネルギーが100%そのままは渡りきれず、コイルや回路から熱として漏れてしまうので、ケーブルを直接差して充電するときより電力効率が低く、充電時間も長くなります。とくに機器の温度が上がりすぎるとバッテリーの寿命を縮めることがあるため、安全のために充電速度を自分で落とすこともあります。
そのため、高速タイプのワイヤレス充電パッドの中には、熱を冷ます超小型の冷却ファンや放熱板を入れた製品もあります。メーカーも、コイルの配置を緻密に磨いて発熱を抑え、エネルギーの伝達効率を高めようと、たくさんの努力を重ねています。
効率や速度の面では有線に及ばない点もありますが、機器に金属の充電端子をむき出しにする必要がないので、水気に強い密閉型の設計がしやすいという長所があります。ケーブルの抜き差しで起こる充電端子のすり減りや故障も減らせるので、日常で大人気なのです。
よくある誤解
ワイヤレス充電パッドを使うと、強力で有害な電磁波が部屋じゅうに広がる。
ワイヤレス充電器は、コイルのすぐ向かい側の数ミリの距離でだけエネルギーをやりとりするように設計されています。パッドから数センチ離れるだけで磁場の強さは急激に弱まるので、日常で出る電磁波は国の安全基準値よりずっと低く、安全です。
日常で出会う場面
スマートフォンを机の上のスタンド型パッドに置くだけで、かんたんに充電できます。
水気がよくかかる電動歯ブラシを充電スタンドの溝にさしておけば、感電の心配なく安全に充電できます。
つまり ひとことで
充電パッドのコイルがつくった磁場の波をスマートフォンのコイルが受け取り、ふたたび電気に変えてバッテリーを満たすしくみです。