科学

揚水発電

電気が余っている時に水を山の上へと汲み上げておき、足りなくなったら一気に流し落として発電する、巨大な「自然のバッテリー」です。

  • 約3分
  • 図 2点
  • 2026-10-12 検証

定義

揚水発電(ようすいはつでん)とは、余った電力を利用して下流の貯水池から上流の貯水池へ水を汲み上げて蓄えておき、電力が必要になった時にその水を一気に落下させて水車(タービン)を回し、再び電気を取り出す大規模なエネルギー貯蔵システムです。

水を汲み上げて充電する巨大なモバイルバッテリー

スマホのバッテリー切れに備えて、モバイルバッテリーを充電しておく人は多いですよね。しかし、発電所で作られる電気は「作る量」と「使う量」を常に一致させなければならず、電線の中にそのまま貯めておくことができません。大型の化学バッテリー(蓄電池)の導入も進んでいますが、莫大なエネルギーを長期間貯めるには、まだコストや寿命の面で課題が残ります。

そこで大活躍するのが「水」です。夜間のように電気の使用量が減って電気が余る時間帯に、その余剰電力で巨大なポンプを回し、下流のダムの水を高い山頂のダムへと汲み上げます。

電気そのものは貯めておけなくても、水を高い場所へ運べば、水の位置エネルギーという形で蓄えることができます。巨大な自然の地形そのものを、天然の充電式バッテリーに変えて活用しているわけです。

数分で電気を送り出す緊急出動隊

真夏の猛暑でエアコンが一斉に使われ、街全体の電気が突如として足りなくなるピンチが訪れたとします。その時、山頂のダムの水門を開くと、高い場所に蓄えられていた膨大な水がパイプを一気に駆け下りてきます。

怒涛の勢いで流れ落ちる水が、底に設置された水車(タービン)を猛スピードで回転させます。タービンにつながった発電機が回り、わずか数分で大容量の電気を作り出して電力網へと送り出します。

火力発電や原子力発電は、ボイラーを温めてフル稼働させるまでに数時間から数日かかります。一方、揚水発電は蛇口をひねるようにバルブを開くだけですぐに送電できるため、大停電(ブラックアウト)を防ぐ「電力網の消防隊」のような頼れる役割を担っています。

もう少し詳しく:エネルギー効率はマイナスなのに、なぜ使うの?

物理の法則から冷静に見ると、水を汲み上げるのに使った電力量よりも、水を落として回収できる電力量のほうが約20〜30%少なくなります。水がパイプを流れるときの摩擦抵抗や、モーター・発電機の発熱によってエネルギー損失が生じるためです。

総エネルギー量だけを見れば損をしているように思えますが、電力需給の面では計り知れないメリットがあります。電気は大量保存が難しく、需要が少ない時の余剰電力は捨てざるを得ないこともありますが、揚水発電なら損失を差し引いても「余っている時間帯の電気」を「喉から手が出るほど必要な時間帯」へタイムシフトして使えるからです。

太陽光発電や風力発電は、天候によって発電量が大きく変動します。昼間に太陽光が作った余剰電力で水を汲み上げ、夜間にその水で発電する――。揚水発電は、出力が不安定な再生可能エネルギーを支える最も頼もしい技術として、世界中で再び脚光を浴びています。

よくある誤解

誤解

揚水発電は水を消費して発電するため、ダムの水がどんどん減っていく。

事実

揚水発電は、上部ダムと下部ダムの間で同じ水を繰り返し行き来させて再利用するため、水をほとんど消費しません。蒸発などで減った分だけを補給しています。

日常で出会う場面

  1. 電力消費が少ない深夜の余剰電力を使い、下流のダムから上流のダムへ水を汲み上げて充電しておく。

  2. 太陽光発電の発電量が急増する昼間に、余った電気を利用して水を汲み上げて蓄えておく。

つまり ひとことで

余った電気で水を高い場所へ汲み上げて「位置エネルギー」として蓄えておき、電気が不足した時に水を流し落として素早く発電する、巨大な水力バッテリーです。

作成 2026-04-19 更新 2026-10-12 検証 2026-10-12