定義
冬眠のメカニズムとは、エサが乏しく厳しい寒さが続く冬を乗り切るために、動物が体温・心拍数・代謝の速度を極端に下げてエネルギー消費を最小限に抑える、体の調節の仕組みです。
スマホの超省電力モードのように体を落とします
寒い冬の日、バッテリーがほとんど残っていないとき、スマホはバックグラウンドのアプリをすべて終了し、画面の明るさも最低まで下げて電源が落ちるのを防ぎますよね。動物たちも冬が来ると、生命維持に必要な最低限の機能だけを残して、体のスイッチを落とします。
冬眠に入ったリスを見てみると、普段は37度前後ある体温を、周りの地中の温度に近い0〜5度まで一気に下げます。1分間に300回以上打っていた心臓は、ほんの数回しか打たなくなり、呼吸も数分に1回だけ。体内時計を極端にゆっくりにするのです。生命活動に必要な化学反応を通常の2〜5%程度まで落として、エネルギーの消費をぎゅっと封じ込めているわけです。
この徹底した省電力状態のおかげで、動物たちは秋のあいだに体にたくわえた脂肪や、巣穴に集めておいたエサを使い、普段よりずっと少ないエネルギーだけで長く厳しい冬を乗り越えられます。
自分で熱を出す特別なストーブ、褐色脂肪
周りの気温が氷点下近くまで下がっても、冬眠中の動物の主要な臓器が凍らずに生命を保てるのは、体の中にある特別な脂肪組織のおかげです。それが、熱をつくる専門の「褐色脂肪(Brown Adipose Tissue)」です。
私たちがよく思い浮かべる白色脂肪が、余った栄養をためておく倉庫だとすれば、褐色脂肪はエネルギーを燃やして純粋な熱に変える、体内専用のストーブです。褐色脂肪の細胞にぎっしり詰まったミトコンドリアが、エネルギーを化学物質としてためずに、そのまま熱エネルギーとして放出するようにできているのです。
動物たちはこの褐色脂肪を使って、体温が生存の限界ラインを下回らないよう、精密に守っています。また、春が近づいて冬眠から目覚めるときも、褐色脂肪をフル稼働させて体温を一気に引き上げ、通常の状態へ戻っていきます。
もう少し正確にいうと
冬眠というと「冬のあいだ何か月も、長く心地よく眠り続けること」と思いがちですが、生理学的には、私たちが夜にとるふつうの睡眠とはまったく別物です。
人や動物が毎日とる睡眠は、脳波が規則的に変化し、日中の記憶を整理して疲れを回復する、能動的な回復状態です。一方、冬眠は、脳の電気信号がほとんど止まり、心臓や呼吸、細胞の活動が停止寸前まで落ち込む、仮死状態に近い代謝抑制の現象です。
小型の動物は、冬眠の途中で数日から数週間おきに、いったん体温を通常まで引き上げ、また深い冬眠に戻ります。このときに冬のあいだに使うエネルギーの大半が消費されるのですが、なぜわざわざ目覚めるのかについては、本物の睡眠をとるためだという説や、免疫を回復させるためだという説など、いくつもの仮説があります。
よくある誤解
冬眠は、ただ冬のあいだずっと深い眠りを続けているだけだ。
冬眠は単なる眠りではなく、代謝活動が停止寸前まで落ちる「仮死状態」です。脳波や代謝が極端に抑えられ、小型の動物は定期的に体温を上げてまた冬眠に入ります。その理由には、睡眠による回復説などいくつもの仮説があります。
日常で出会う場面
キタリスの仲間であるホッキョクグラウンドリスは、体温がマイナス2.9度まで下がっても血液が凍らず、深い冬眠状態を保ちます。
クマは体温を普段より5〜6度ほどしか下げませんが、代謝は通常の4分の1ほどまで落とすという独特な冬眠をします。冬眠中に子どもを産んで授乳することもあります。
つまり ひとことで
冬眠のメカニズムとは、体温と代謝を極端に下げてエネルギー消費を減らし、褐色脂肪で最低限のぬくもりを守りながら冬を乗り切る生存戦略です。