定義
生き物が体の中で働くときに、すぐ取り出して使えるエネルギーを詰めておく物質です。食べ物から得たエネルギーをここに移し替えておき、必要な場所で少しずつ取り出して使います。使い終わったらまた充電し直すことを、休みなく繰り返しています。
体の中にも小さな充電バッテリーがあります
ゲーム機のワイヤレスコントローラーを思い浮かべてみましょう。壁のコンセントにコントローラーをつなぎっぱなしでゲームをするわけにはいきません。そこで、中に入っている小さなバッテリーに電気をためておき、そのバッテリーでゲームをして、切れたらまた充電します。
私たちの体も同じ悩みを抱えています。ごはんやパンにはエネルギーがたっぷり入っていますが、ごはんをひと口分まるごと脚の筋肉に押し込むことはできません。食べ物の中のエネルギーはかたまりが大きくて荒っぽく、細胞がそのままでは使いにくいのです。
そこで細胞は、食べ物から得たエネルギーを細かく分けて、小さなバッテリーに移し替えます。このバッテリーこそがATPです。細胞がそのまま差し込んで使える形に変えておいたエネルギー、というわけです。
しっぽが1本外れるときに力が出ます
このバッテリーには、しっぽのようにずらりとつながったリン酸が3つ付いています。リン酸とは、リンという元素を含む小さな部品のことです。いちばん端に付いているリン酸が1つ外れるとき、細胞が使える力が生まれます。
その力で筋肉が縮んで脚が動き、神経細胞が信号を隣へ受け渡します。体温が保たれているのも、このバッテリーを充電したり使ったりする過程で熱が一緒に出るからです。しっぽを1本手放したバッテリーは、リン酸が2つだけ残った放電状態になります。
放電したバッテリーは捨てられません。細胞の中の発電所であるミトコンドリアが、食べ物のかけらと呼吸で取り込んだ酸素を使って、いちばん多くの量をもう一度付け直してくれます。酸素がまにあわないときには、細胞が酸素なしで急いで充電する別のルートも一緒に使います。こうしてバッテリーは元どおりに充電されます。
私たちの体は、このように同じバッテリーを使っては充電することを繰り返しています。バッテリーを新しく作ってためこむよりも、あるものを休まず使い回す方式なのです。
もう少し正確に言うと
このバッテリーは、エネルギーを長くためておく倉庫ではありません。体の中にあるATPは、ほんの少しの間使える分しかありません。そのかわり、使ったそばからすぐ充電されるので、一日中足りなくなることはありません。
長く使うエネルギーは、別の場所にためてあります。脂肪や、肝臓と筋肉にまとめて蓄えられた糖(グリコーゲン)が、その倉庫の役割をしています。体はその倉庫から材料を取り出してバッテリーを充電する、というリレーのようなやり方をしています。倉庫が大きいからといって、バッテリーを一度にたくさん持っているわけではないのです。
「リン酸どうしのつながりにエネルギーが閉じ込められている」という言い方も、イメージを描くための表現です。実際には、外れたあとの状態のほうが安定していて、その差の分だけ力が出ると考えるほうが近いです。細菌から木、そして人間まで、細胞でできた生き物はみんなこのバッテリーを共通して使っています。
よくある誤解
ATPは、体がエネルギーを長くためておく倉庫である。
体の中のATPは、少しの間使える分しかありません。長く使うエネルギーは、脂肪や、肝臓と筋肉にためた糖の形で蓄えておき、必要なときにATPに変えて使います。
ATPは、人や動物のように複雑な生き物だけが使う物質である。
細菌や植物も同じバッテリーを使っています。植物は日光から得たエネルギーをまずATPに入れ、その力で養分を作ります。
日常で出会う場面
階段を駆け上がるとき、脚の筋肉がATPを素早く使って力を出します。
じっと座って本を読んでいる間も、脳の細胞がATPを使って信号をやりとりしています。
つまり ひとことで
細胞がそのまま差し込んで使う、とても小さな充電バッテリーで、リン酸を1つ外して力を出し、また付け直して充電することを繰り返しています。