定義
2枚の網戸を重ねて少し傾けたときに現れる波模様のように、規則的なパターンが重なり合うことで、もともと存在しなかった大きな縞模様や同心円が浮かび上がる干渉現象のことです。デジタルカメラで細かいストライプ柄の服を撮影したり、パソコンの画面をスマホで撮ったりしたときに、画面がチラチラと波打つように写るのが代表的な例です。
なぜ重ねると不思議な波模様ができるのでしょうか?
窓の網戸を張り替えたり洗ったりするときに、2枚重ねてみた経験はないでしょうか。2枚の網目が完全に一致せず、ほんの少し傾くだけで、目の前に不思議とうねるような曲線や大きな波模様がふわっと現れます。
これは、網目の穴同士がぴったり重なって光を通す明るい部分と、線がずれて穴をふさいでしまう暗い部分が、規則的な間隔で交互に生じるためです。もともと1枚ずつの網戸にはそんな波模様など一切ありませんが、2つの規則的な格子が重なることで、新しい視覚的な干渉パターンが生み出されたのです。
この現象は、波状の光沢を持つ絹織物を意味するフランス語の「モアレ(Moiré)」に由来して名付けられました。日常でも、ボーダー柄のブラインド越しに別の柵が見えるときや、目の細かいレースカーテンが重なったときなどに簡単に見ることができます。
画面をカメラで撮ると、なぜ虹色の波が出るのでしょうか?
スマホのカメラでパソコンの画面やテレビを撮影したとき、画面の上にカラフルな虹色の波がゆらめくのを見たことがあるでしょう。カメラのレンズや液晶パネルが故障したのではないかと心配する人も多いですが、これも代表的なモアレ現象の一つです。
普段見ているディスプレイには、何百万個もの微細な画素(ピクセル)が碁盤の目のようにびっしり並んでいます。そして、スマホ内のイメージセンサー(光を感じ取る電子部品)にも、受光素子が細かく並んだ格子が存在します。さらに、画面の画素は赤・緑・青の微小な点で構成されており、カメラセンサーの前にも赤・緑・青のカラーフィルターが並んでいます。そのため、色ごとに模様のずれ方が異なり、虹色のカラフルな波模様として現れるのです。
画面の画素の並びとカメラセンサーの素子の並びが重なることで、センサーが等間隔で光をサンプリングする際に、それより細かな模様を本来の画面にはない大きな偽りの波模様として記録してしまいます。カメラの角度を少し傾けたり距離を変えたりするだけで、模様の形や大きさが生き物のように変わるのもこれが理由です。
もう少し正確に言うと:デジタル技術はモアレとどう戦っている?
もう少し専門的に言うと、デジタル撮影で起こるモアレは、センサーの受光能力の限界(サンプリング周波数)を超える細かな規則的パターンを捉えたときに発生する「信号の歪み(エリアシング)」の一種です。カメラのセンサーが細かい縞模様の本来の周期を正確に識別できず、誤って全く別の低い周波数の信号(大きな縞)として読み取ってしまうのです。
この問題を解決するため、従来のデジタルカメラの多くはセンサーの手前に「光学ローパスフィルター」と呼ばれる特殊な板を配置していました。光をほんのわずかにぼかすことで、センサーが捉えきれない限界を超えた微細な境界をなめらかに潰してしまう仕組みです。このフィルターを使えばモアレは消えますが、写真のシャープな解像感がわずかに犠牲になるという弱点がありました。
しかし近年は、センサーが高画素化してより細かな模様まで捉えられるようになったほか、レンズ自体のわずかなにじみもフィルター代わりになるため、解像感を最優先してローパスフィルターを省いたカメラ(ローパスフィルターレス)が増えています。発生したモアレや偽色はカメラ内部の画像処理や現像ソフトで抑えますが、一度画像に混ざってしまったパターンを本物の被写体の模様と完全に見分けるのは困難です。そのため、レンズの解像力がセンサーの限界を上回る環境で細かいスーツの織り目などを撮影すると、今でもモアレが発生することがあります。
よくある誤解
スマホでディスプレイを撮ったときに波模様が出るのは、カメラのレンズや画面パネルの不具合のせいだ。
機器の故障ではなく、画面の画素の並びとカメラセンサーの素子の並びが重なることで発生する、光学的にごく自然な干渉現象です。
日常で出会う場面
ニュースキャスターが細かいストライプのシャツを着ていると、テレビ画面の中で服がチリチリと虹色に波打って見える。
ノートパソコンの画面をスマホのカメラで接写すると、画面全体にぐるぐるとした円弧状の波模様が現れる。
つまり ひとことで
規則的な2つの格子模様が重なり合うことで、視覚的な干渉が起き、本来は存在しない新たな波模様が浮かび上がる現象です。