定義
近距離ファイル共有とは、スマートフォンやパソコンなどの電子機器がインターネットサーバーや携帯キャリアのデータ通信を経由せず、すぐ近くにある別の端末と直接ワイヤレスで接続し、写真や動画、書類などを超高速で送受信する技術です。AppleのAirDrop(エアードロップ)やAndroidのQuick Share(クイックシェア)が代表的です。
Bluetoothで握手して、Wi-Fiで荷物を運ぶ
大勢の人が集まるパーティー会場で友達を探すとき、まず手を振って目が合ったら近くに歩み寄って会話を始めますよね。近距離ファイル共有もまったく同じ手順で動作します。2台の端末がお互いの存在を認識し、ファイルをやり取りするまでには、役割の異なる2つの無線技術の見事な連係が隠されています。
スマートフォンは、消費電力が極めて少ない「BLE(Bluetooth Low Energy)」を使って、周囲にファイルを受け取れる端末がないか常に探しながら「あいさつ信号」を発信しています。この信号によって相手の画面に自分の端末名が表示され、相手が「承認」ボタンを押すと、2台の間に通信路を開く準備が整います。
いざ本格的なファイル転送が始まると、Bluetoothの数十倍から数百倍も速い端末同士を直接つなぐP2P Wi-Fiへバトンタッチします。Androidでは主に「Wi-Fi Direct」、Apple製品では独自技術の「AWDL」が使われます。ルーターを介さずにスマホ同士が直接デジタルの専用トンネルを開通させてデータを送るため、大容量の動画でもメッセージアプリよりはるかに速く(通常数十秒〜数分で)送信できます。
正確に言うと、ギガ(データ通信量)を消費しません
メッセージアプリで写真を送る場合、データは携帯キャリアの基地局を経由して遠く離れた会社のサーバーへアップロードされ、そこから友達のスマホへとダウンロードされます。この過程で契約しているデータ通信量(いわゆる「ギガ」)が消費され、通信速度を上げたりサーバー容量を節約するために写真が自動的に圧縮されて画質が落ちることもあります。
一方、近距離ファイル共有は、すぐ近くで直接送る場合は外部のインターネット網や基地局を通さない端末間(P2P:Peer to Peer)の直接接続方式です。そのため、飛行機の中や電波の届かない山奥のようにデータ通信やWi-Fiルーターがない場所でも、端末のワイヤレス機能さえオンになっていれば問題なく利用できます。
さらに、写真や動画を圧縮せずオリジナルの画質のまま100%きれいに送れるという大きなメリットもあります。近くの端末同士で直接やり取りする限り、データ通信料はかかりません。ただし一部の端末では、相手と距離が離れた際にインターネット経由の転送に切り替わる機能があり、その場合はギガが消費されることがあります。転送されるデータは2台の間で暗号化されるためサーバーに残る心配はありませんが、端末名が周囲に表示されたり見知らぬ人から送信要求が届いたりといった近距離共有特有のリスクもあるため、受信設定の管理が欠かせません。
送信が失敗する原因と守るべきセキュリティ習慣
最もよくある失敗の原因は、2台の距離が離れすぎているか、BluetoothまたはWi-Fiのどちらかがオフになっていることです。端末同士の間に専用の仮想ブリッジを架ける必要があるため、通常は5〜10メートル以内の近距離を保つことで安定して接続できます。また、周囲に電波が飛び交っていて電波干渉が起きている場合にも転送が途切れることがあります。
セキュリティのために受信設定をこまめに見直すことも極めて重要です。ファイルの受信範囲を「すべての人」にしたままにしておくと、電車の中やカフェなどの公共の場所で見知らぬ人から不快な画像や不正なファイルを送りつけられるサイバー迷惑行為(AirDrop痴漢・AirDropテロなど)の被害に遭うおそれがあります。
普段はファイルの受信対象を「連絡先のみ」に限定するか、完全にオフにしておく習慣をつけると安全です。最近では、超広帯域無線(UWB)技術によってスマホを向けた方向にある端末をリストの最上位に自動表示するなど、近距離ファイル共有の技術はますます直感的で便利に進化しています。
よくある誤解
近距離ファイル共有を使うと、スマートフォンのモバイルデータ通信量(ギガ)が減ってしまう。
近くの端末同士で直接ワイヤレス通信を行う際は、外部のインターネット網を経由しないためデータ通信量は消費されず、Wi-Fiルーターや携帯の電波がない場所でも機能します。ただし、端末同士の距離が離れてネット経由の転送に切り替わったり、リンクやQRコードで共有したりする場合はデータ通信量を消費することがあります。
日常で出会う場面
カフェで友人と旅行の写真を数十〜数百枚、元の画質のまま瞬時に送り合いたいときに使います。
機内モードのままでもBluetoothとWi-Fiさえオンにすれば、隣の席の同僚に大容量のプレゼン資料をすぐに渡せます。
つまり ひとことで
近くにある端末同士がインターネットを介さず、Bluetoothで相手を探し、端末間を直接つなぐWi-Fi(Wi-Fi Directなど)で大容量のオリジナルファイルをやり取りする高速ワイヤレス転送技術です。