定義
自然界を観察していると、同じ種類なのにオスとメスでまったく違う姿形をしている生き物がたくさんいます。性的二形(せいてきにけい / Sexual Dimorphism)とは、同種の中でオスとメスの体の大きさ、色、角や羽などの形態的な特徴がはっきりと異なっている生物学的現象を指します。単なる生殖器官の違いにとどまらず、外見のいたるところに明確な違いが現れます。
派手なオスと控えめなメスの秘密
鮮やかな扇状の飾り羽を広げてアピールするクジャクはオスで、その隣で静かに草をついばむ地味な茶色の鳥がメスです。ライオンの群れでも首回りに立派なたてがみを持つのはオスだけで、クワガタムシも大きく威嚇的なオオアゴを持っているのはオスです。
このようにオスメスの外見が極端に異なる最大の理由は、繁殖をめぐるパートナー争いにあります。繁殖期になると、オスはメスに選ばれるために鮮やかな体色や求愛ダンスでアピールしたり、他のオスと縄張りや交尾の権利をかけて激しい戦いを繰り広げたりしなければなりません。
進化生物学では、このように配偶者を獲得する競争のなかで特定の形質が有利になる現象を性淘汰(性選択)と呼びます。天敵から身を隠すには目立たない地味な姿のほうが安全ですが、パートナーを見つけて遺伝子を次の世代へ残すためには、命がけで派手で目立つ姿を手に入れるしかなかったのです。
必ずしもオスの方が大きく派手なわけではありません
哺乳類や鳥類をよく見ていると、「いつもオスの方が大きくて強そう」という先入観を持ちがちです。しかし、昆虫やクモ、爬虫類や魚類などに目を向けると、むしろメスの方がオスよりも格段に大きいケースが数多く見られます。
ジョロウグモはメスの体がオスの何倍も大きく、カマキリもメスの方が一回り大きくて頑丈です。カマキリの場合、交尾の最中や前後にメスがオスを食べてしまうことさえあります。卵を作り、栄養をたっぷり蓄えて産卵するには莫大なエネルギーが必要なため、メスにとっては体が大きいほどたくさんの卵を産めて繁殖に有利だからです。
一方、オスは素早く動き回ってメスを見つけ、精子(遺伝子)を渡しさえすれば役割を果たせます。無理に大きな体を維持して大量の餌を食べ、エネルギーを無駄遣いする必要がないのです。深海にすむチョウチンアンコウの仲間では、メスの体長が数十センチあるのに対し、オスは指先ほどのサイズしかなく、メスの体に一生同化するように寄生して暮らす種もいます。
もう少し詳しく:生存と繁殖のあいだの綱引き
性的二形は単なる「見た目の違い」ではなく、生存と繁殖という2つの目標の間で妥協点を見いだした進化の結晶です。オスのクジャクの巨大な飾り羽は、天敵にすぐ見つかってしまう危険な重荷になり得ます。
それにもかかわらず、こうした生存に不利な装飾が淘汰されずに進化してきた理由として有名なのが、逆説的な「ハンディキャップ説」です。これほど邪魔で危険な飾りを背負いながら生き延びていること自体が、メスに対して健康で身体能力が優れていることの確固たる証明になるという考え方です。ただし、メスの好みがエスカレートして羽を巨大化させたというランナウェイ説など他の説明もあり、学者によって見解は分かれています。
結局のところ、性的二形は過酷な環境を生き延びようとする力(自然淘汰)と、より魅力的な相手と結ばれて子孫を残そうとする力(性淘汰)がせめぎ合って生まれた精巧なバランスです。オスとメスがそれぞれの繁殖の役割に応じて、異なる生存戦略を選び取った結果なのです。
よくある誤解
性的二形では、常にオスの方がメスよりも大きく派手になる。
クモや昆虫、魚類など多くの生き物では、たくさんの卵を産むためにメスの方が大型です。また、鳥類の一部(タマシギなど)ではメスが縄張りを守り、オスが卵を温めるため、メスの方が鮮やかな羽色を持つ例もあります。
日常で出会う場面
見事な飾り羽を広げるオスのクジャクと、地味な茶色の保護色を持つメスのクジャク
立派なたてがみを持つオスのライオンと、たてがみのないメスのライオン
メスの体がオスの何倍も大きいジョロウグモや、さらに体格差の極端なチョウチンアンコウ
つまり ひとことで
性的二形とは、同じ種類のオスとメスが、繁殖をめぐる競争や役割分担に合わせて体の大きさや見た目を別々に進化させた現象です。