定義
生き物が生き残るため、子孫を残すため、あるいは獲物を捕らえるために、別の生き物やまわりの環境の姿をまねる現象です。見た目だけでなく、音や動き、化学物質までまねて、捕食者の目をあざむいたり、獲物を油断させたりします。
危険な相手をまねる魔法
ハロウィンのお祭りで怖いおばけのお面をかぶると、みんなそろそろと道をあけますよね。自然の中の野生動物も、これと同じ方法で命を守っています。毒針も毒もまったくないハナアブという虫は、おそろしいミツバチそっくりの黄色と黒のしま模様の服を着て飛びまわります。
鳥は昔ミツバチに刺されて痛い思いをした記憶があるので、似たしま模様を見ただけでびっくりして逃げ出します。このように、武器もなく味もおいしい弱い生き物が、毒のある危険な相手の姿をまねて身を守る方法を、ベイツ型擬態と呼びます。
生き物ではなく、まわりの物に化ける隠れた達人もたくさんいます。ナナフシは、体の色やでこぼこした節の形まで小枝そっくりに作り上げて、葉のあいだに隠れます。ガの仲間には、枯れ葉の形をまねて地面にぺたりと伏せ、捕食者の視線を完全にかわすものもいます。
こうして危険な相手をまねたり、まわりの背景に溶け込んだりすると、天敵に出会ったときに食べられる確率をぐっと下げられます。おかげで力の弱い草食の昆虫も、厳しい自然の中で安全に命をつないでいけるのです。
警告を分け合い、えさをおびき寄せる技
擬態は、弱い者が強い者をまねるだけでは終わりません。毒や悪臭をもつ強い者どうしが、たがいに見た目をそっくりにそろえることもあります。南米の毒をもつチョウの群れは、種類がちがうのに、示し合わせたように同じオレンジと黒の翅の模様をしています。
捕食者からすると、オレンジ色のチョウを一匹だけ食べて苦い思いをすれば、似た色をしたほかのチョウもみんな毒があると考えて避けるようになります。危険な生き物たちが警告のサインをいっしょに使うことで、学習のときに出る犠牲をできるだけ減らす、かしこい方法です。
反対に、相手をだまして楽に食事にありつく攻撃的なハンターもいます。ハナカマキリは、あざやかなピンク色の花びらのように体を広げて、じっと待ちます。蜜を求めて飛んできたチョウやハチが花だと思って近づいた瞬間、電光石火でつかまえて狩りに成功します。
さらに、水中のアンコウは、額から伸びたトゲの先をミミズのように揺らして、小さな魚をおびき寄せます。このように擬態は、弱者の盾になることもあれば、相手を誘い込んで襲いかかる鋭い矛として使われることもあるのです。
もう少し正確にいうと
擬態を観察していると、まるで昆虫が頭をひねって「ハチみたいな服を着よう」と自分で決めたように見えるかもしれません。けれども、どんな生き物も、自分の意思で体の色や形を変えて生まれてくることはできません。
昔、偶然に起きた突然変異のおかげで、おそろしいハチとほんの少しだけ似た模様をもつ個体が生まれた、というだけのことです。こうした個体は天敵の攻撃を少しでも受けにくく、より長く生き残り、次の世代に自分の遺伝子をより多く伝えることができました。
何千、何万世代にもわたってこの過程が少しずつ積み重なり、本物と見分けがつかないほど精巧な姿になっていきました。つまり擬態は、生き物が見せるすばらしい演技ではなく、自然選択がつくり上げた進化の結果なのです。
結局のところ擬態は、偶然の変化の中から生存に有利な特徴が生き残るという進化の力を、もっとも目立つかたちで生き生きと見せてくれる証拠だといえます。
よくある誤解
動物が敵をだますために、意識して体の形や色を変えたのだ。
動物の意思ではなく、たまたま別のものに似ていた個体が生き残ってより多くの子孫を残した、自然選択の結果です。
日常で出会う場面
毒のないハナアブが、毒針をもつミツバチとそっくりの黄色いしま模様をしている現象
花のような姿のハナカマキリが、花のふりをしてじっと止まり、チョウをおびき寄せて捕らえる様子
つまり ひとことで
身を守るため、あるいは狩りを成功させるために、ほかの対象や環境に似るよう進化した現象です。