科学

警戒声

捕食者が現れたとき、群れ全体を避難させようと野生動物が鳴らす緊急の非常ベルです。

  • 約3分
  • 図 1点
  • 2026-10-16 検証

定義

警戒声(アラームコール)とは、天敵などの危険を最初に見つけた動物が声を出し、周りの仲間に状況を知らせる生存のためのシグナルです。声を出した動物は自分の居場所がばれる危険を冒しますが、群れ全体の生き残る確率を大きく高めてくれます。

わが身を犠牲にして、みんなを救う合図

火事が起きたとき、建物じゅうに鳴り響く火災報知器のように、動物たちも天敵が現れると声を張り上げます。空に猛々しいタカが現れたとき、リスやミーアキャットが鋭い声を上げる姿を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。この声を聞いた仲間は、素早く岩の隙間や地面の巣穴に隠れて命拾いできます。

ところが、声を上げた本人は大きな危険にさらされます。鋭い声のせいで、捕食者の視線と攻撃が自分に集中してしまうからです。自分にとって危ない行動なのに、こうした警戒声の行動が消えずに受け継がれてきたのはなぜでしょうか。

代表的な説明は、周りに集まって暮らしている群れの顔ぶれにあります。ジリスのように、メスが生まれた場所の近くにとどまる種では、周りの仲間の多くが親やきょうだい、子どものように自分の遺伝子を共有する家族だからです。

自分が捕食者に捕まる危険を引き受けても、血のつながった家族が何匹も生き延びれば、自分の遺伝子はより多く次の世代に伝わります。生物学ではこれを血縁選択(家族を助けて自分の遺伝子を残す繁殖のしかた)と呼びます。1977年のベルディングジリスの研究は、この説明を裏づけました。ただし、捕食者の注意をそらす、捕食者に「もう見つけたぞ」と知らせるなど、ほかの説明も並行して研究されています。

捕食者の種類によって声が変わります

動物の警戒声は、びっくりして思わず出る悲鳴とは違います。どんな天敵がどんなふうに近づいてくるかによって、声の高さやリズムが細かく変わるのです。

代表的な例がアフリカにすむベルベットモンキーです。このサルは、ヒョウ、毒ヘビ、ワシが現れたとき、それぞれまったく違う警戒声を出します。声の意味が違うので、仲間の対応も声ごとにばらばらです。

ヒョウの警戒声が響くと、サルたちはヒョウが登りにくい高い枝の先へ逃げます。反対にワシの警戒声なら、空からの視線を避けて茂みの奥へ潜り込みます。毒ヘビの警戒声を聞いたときは、後ろ足で立ち上がり、地面の草むらをじっと見張ります。

このように警戒声は、ただの騒音ではなく、その場にふさわしい行動の手順をすぐに伝える、暗号の言葉のような役割を果たしているのです。

もう少し正確に言うと

警戒声は、いつも仲間のための親切で正直な合図として使われるわけではありません。自然界には、この警戒声をずる賢くだましに使う動物もいます。

南アフリカにすむオウチュウの仲間(フォークテールド・ドロンゴ)という鳥は、ミーアキャットがおいしい餌を捕まえたときに、にせの警戒声を上げます。驚いたミーアキャットが天敵が来たと思って巣穴に逃げ込むと、その隙に置き去りにされた餌をさっと奪って食べてしまうのです。

また、警戒声の相手がいつも仲間とは限りません。ときには捕食者に向かって「もうおまえを見つけたぞ、奇襲は失敗だ」と宣言する、狩りの意欲をそぐ目的で使われることもあります。

奇襲がばれた捕食者は、力をむだにしないよう狩りをあきらめることが多いです。結局、警戒声は群れを守るための犠牲であるだけでなく、相手をだましたり天敵を追い払ったりするさまざまな生存のわざが詰まった戦略なのです。

よくある誤解

誤解

警戒声は、ひたすら群れのために自分を犠牲にする純粋に利他的な行動である。

事実

家族の遺伝子を残そうとする進化上の計算が背景にあったり、にせの警戒声で他人の餌を奪うなど、個体自身の利益のための戦略としてもよく使われます。

日常で出会う場面

  1. ベルベットモンキーは、空のワシと地上のヒョウを区別して、それぞれ違う警戒声を出します。

  2. オウチュウの仲間は、ミーアキャットの餌を奪うために、にせの警戒声を鳴らしてミーアキャットを逃げさせます。

つまり ひとことで

警戒声は、天敵の脅威を知らせて家族を守り、状況に合った対応を助ける、精巧な生存のシグナルです。

作成 2025-12-30 更新 2026-10-16 検証 2026-10-16