定義
道端で配られている怪しいチラシやネットの疑わしい書き込みは、最初は信じずに受け流すことがほとんどです。ところが数日や数週間が経つと、「どこで聞いたか(情報源)」は忘れ去られ、話の「内容」だけが記憶に残って、かえって説得力が増してしまうことがあります。このような心理現象を「スリーパー効果」と呼びます。眠っていた情報の影響力が、時間の経過とともにゆっくりと目を覚ますかのように働くことから名付けられました。
情報源は忘れ去られ、噂の内容だけが残る
ある日、普段から嘘ばかりつく知人が「あの店の厨房、すごく不衛生らしいよ」という噂を教えてくれたと想像してみてください。最初は相手の普段の行いを思い出し、鼻で笑ってまったく信用しないはずです。
ところが数か月後、その飲食店の前を通りかかったとき、ふと「あそこは厨房が汚いんだったっけ」という記憶だけがふわりとよみがえります。あんな嘘つきから聞いたという事実は忘れ、噂の内容だけが頭に残ってしまったためです。
心理学では、メッセージの核心とその発信者(情報源)の結びつきが時間の経過とともに弱まり、情報源の記憶が内容よりも先に薄れていくためだと説明されます。ただし、このメカニズムについては研究者の間でも今なお議論が続いている仮説です。
結局、「どこで聞いたか」は消えて聞き覚えのあるフレーズだけが残り、私たちはそれをあたかも客観的な事実のように受け入れてしまうことがあります。もっとも、いつでも起きるわけではなく、特定の条件がそろったときに現れる現象です。
もう少し詳しく紐解くと
もう少し詳しく見ていくと、この現象はメッセージ自体の論拠に一定の説得力があり、かつ「信用できない情報源である」という事実をメッセージを見た後に知った場合、より顕著に現れます。いくら情報源を忘れたとしても、内容そのものがあまりに荒唐無稽であれば後になっても信じないからです。
心理学では、メッセージの信ぴょう性を引き下げる外部情報(疑わしい発信元、反論の但し書き、警告表示など)をディスカウント手がかり(割引手がかり)と呼びます。「信用できない」というディスカウント手がかりが記憶から先に薄れることで、抑え込まれていたメッセージ本来の説得力が復活する仕組みです。
反対に、専門家のような信頼性の高い情報源による発言は、最初は強い説得力を持ちますが、一部の実験では時間とともにその効果が薄れる傾向が観察されています。そのため、時間が経つと情報源の信頼性による説得力の差が縮まることがあるのです。
このように私たちの記憶は完璧なビデオ録画ではなく、時間が経つにつれて断片的なピースが大雑把に再構成される不完全な性質を持っています。
フェイクニュースや広告に悪用される心の隙
こうした心理的な隙は、ネガティブキャンペーンやネットのゴシップ、誇大広告に悪用される恐れがあります。最初は「そんな馬鹿な話があるか」と鼻であしらわれても、後からじわじわと影響が出てくる可能性があるからです。
月日が流れて投票日や買い物の決断の瞬間が訪れたとき、人々は情報源の怪しさをすっかり忘れ、頭の片隅に残ったそれらしい内容に無意識のうちに流されてしまうことがあります。
似たような心理効果として、同じ話を何度も耳にすると真実のように感じられる真実性の錯覚効果もあります。スリーパー効果とは仕組みが異なりますが、組み合わさって働くことも少なくありません。
こうした錯覚に惑わされないためには、刺激的な情報に触れたとき「どこで知った話だったか?」を意識的に確認することが大切です。内容だけでなく情報源もセットで思い出す習慣が、身を守る防波堤になります。
よくある誤解
スリーパー効果とは、睡眠をとることで記憶が定着・強化される「睡眠学習」のような現象を指す。
睡眠(Sleep)に関連する脳科学の用語ではありません。当初は信用されなかった情報の説得力が、まるで眠っていたかのように潜伏し、時間が経ってから目を覚ますという比喩から名付けられた心理学の用語です。
日常で出会う場面
選挙の時期に匿名掲示板に書き込まれた疑惑の噂を最初は相手にしなかったが、いざ投票所に立つと疑惑の内容だけを思い出してしまい、投票判断に影響を受けるケース。
出どころの怪しいサプリメントの広告を最初は信じなかったものの、数か月後にドラッグストアでその成分名を見かけた際、「体にいい成分だったはず」と錯覚して購入してしまうケース。
つまり ひとことで
信頼性の低い情報源が時間の経過とともに忘れ去られ、メッセージの内容だけが記憶に残ることで、特定の条件下において後から説得力が増す心理現象です。