定義
吊り橋とは、巨大な塔の間にケーブルを渡し、そのケーブルから橋桁(路面を支える部分)を垂直に吊り下げてつくる橋のことです。海や深い谷のように橋脚をたくさん立てにくい広い場所を、ひとつの長い支間(橋脚と橋脚の間の距離)で渡すのにいちばん向いた橋の形式です。
巨大なケーブルが橋を持ち上げるしくみ
両手で重いカバンを持って立っているとき、腕がピンと張る感覚を思い出してみてください。吊り橋は、橋の床の重さを下から柱で支えるのではなく、上から鋼鉄のロープで引っ張って宙に浮かせる方式です。海のど真ん中に橋脚をびっしり立てなくても、数キロメートルをひとっ飛びに渡れる秘密がここにあります。
橋の両側には、空高くそびえる巨大な柱、主塔が立っています。この主塔のてっぺんを通って、両側の地面の端まで長く垂らした太いロープを主ケーブルと呼びます。そして主ケーブルから下向きに何本もの垂直なロープ(ハンガーロープ)を降ろし、車や人が通る橋桁をつなぎ止める形になっています。
橋桁の上を走る車の重さは、まず垂直なロープを伝って上へ向かいます。その力は曲線を描く主ケーブルを通り、主塔と両端の地中にある固定装置へ分散されます。物を下から直接支えるのではなく、丈夫なひもで宙に吊る力を使った、賢い構造なのです。
引っ張る力と押す力の見事な分担
物に力が加わるとき、材料ごとに得意な耐え方が違います。鉄の棒は上から押す力にはよく耐えますが、長くなると曲がりやすくなります。逆に細い針金は、押すとぐにゃっとつぶれますが、両側からピンと引っ張る力にはものすごい重さでも平気で耐えます。
吊り橋は、こうした材料の性質を極限まで活かしています。高い主塔は、上からのしかかる巨大な押す力である圧縮力を一手に引き受けて地面へ伝えます。一方、長く垂れ下がった主ケーブルとハンガーロープは、ピンと伸びようとする引っ張る力、つまり引張力だけを全身で受け止めます。
鋼鉄のケーブルは、自分の重さのわりに引張力にとても強い材料です。そのおかげで、橋の途中に重い橋脚を何本も立てなくて済みます。自分自身の重さを大幅に減らしながら、とてつもなく遠い距離を安全につなげるようになるのです。
もう少し正確に言うと:地中の巨人と、風という宿題
ケーブルがどれだけ丈夫でも、両端でしっかり押さえておかなければ橋はそのまま崩れてしまいます。そのため橋の両端には、数万トンにもなる巨大なコンクリートのかたまりや硬い岩盤にケーブルを固定する、アンカレイジがあります。金門橋のアンカレイジは1基で約6万トンです。綱引きで後ろから全力で踏ん張る人のように、ケーブルが引っ張る莫大な張力を、コンクリートの重さや岩盤の力でつかんで離さない役割を果たします。ただし、ケーブルの端を地面ではなく橋桁の両端に固定する自碇式(じていしき)の吊り橋もあります。
橋が長くなるほど、吊り橋がいちばん警戒すべき敵は重いトラックではなく風です。ロープで吊られたしなやかな構造なので、風が吹くと旗のように橋が揺れ動くことがあります。
橋がねじれると風から受ける力が変わり、その力がさらにねじれを大きくするフィードバック(フラッター)が起きると、橋全体がよじれて崩れることがあります。1940年、アメリカのタコマ・ナローズ橋がこうして崩落しました。そのため現代の吊り橋では、風が上下になめらかに抜けるよう飛行機の翼のような流線形の橋桁を使ったり、風が通り抜けるトラス構造の骨組みで橋桁を頑丈にしたりして、揺れを防いでいます。
よくある誤解
吊り橋は、橋桁そのものが厚くて重いから頑丈に耐えているのだ。
むしろ正反対です。吊り橋では、橋桁の重さは主に上から引っ張る主ケーブルと、そのケーブルを支える主塔・アンカレイジが受け止めます。橋桁は重さを支えるというより、風で揺れない程度の剛性(かたさ)を備えるように設計されます。
日常で出会う場面
アメリカ・サンフランシスコのシンボルである金門橋(ゴールデンゲートブリッジ)は、代表的な吊り橋です。
日本の明石海峡大橋のように、海を大きく横切る長大な橋も吊り橋の方式でつくられています。
つまり ひとことで
吊り橋は、主塔とアンカレイジにつながれた鋼鉄のケーブルで橋桁を宙に吊り下げ、途中の橋脚をほとんど立てずに、とても遠い距離を渡る橋です。