定義
アーチ構造とは、上からのしかかる重さを、曲線に沿って左右と下へ逃がしていく建築のしくみです。接着剤も鉄筋もなしに、石どうしがぎゅっと噛み合って支え合うようにできています。
石どうしが押し合って支える仕組み
スイカを一切れ逆さまに持って、左右から手のひらでぐっと押さえると、下に落ちませんよね。アーチもまったく同じ原理で立っています。台形に削った石を半円状に積み上げると、重力が石を下へ引っぱるほど、石どうしがますます強く押し合うことになります。
上からの重さは石を壊すどころか、石と石のすき間をなくして、全体をいっそう固く結びつけます。いちばん上に最後にはめ込む石を要石(かなめいし、キーストーン)と呼びます。この要石が真ん中にぴたりと収まった瞬間、左右のすべての石がすき間なく噛み合い、大きな橋や天井を支えられるようになります。
こうして押される力で支える性質を圧縮力といいます。石やレンガは、引っぱる力にはもろくても、押しつぶす力にはとても強いのです。アーチは、石のこの性質を百パーセント生かした技術です。
外へ開こうとする力を食い止めろ
アーチの橋を渡っていても感じませんが、アーチは実は、脚を左右に引き裂くようにして、必死に開こうとしています。上からかかった重さが曲線を伝って下りてくるうちに、柱の根もとを外側へ押し出す力に変わるからです。
この力を物理では「側圧」または水平推力と呼びます。もし両側の柱がこの押し出す力に耐えきれず、外へ押されてしまうと、てっぺんの要石がすとんと抜け落ちて、全体がガラガラと崩れてしまいます。
そこで古代ローマ人や中世の建築家たちは、柱の外側にとても厚い壁や土の盛り土を添えて、押し出されないようにしました。高い大聖堂の外壁から翼のように張り出している飛び梁(フライング・バットレス)も、アーチが横に開かないよう外からしっかり押さえる支えの役目を果たしています。
もう少し正確にいうと
もう少し正確にいうと、アーチの内部では、物を引っぱる力(引張力)がほとんど生まれません。平らな木の板や石の板は、真ん中に重い荷物をのせると、弓のように下へたわんで、下側が裂けようとする力を受けます。石はこの引っぱる力にとても弱く、すぐに折れてしまいます。
いっぽう、受ける重さにぴったり合った曲線でつくったアーチは、その重さをほとんど純粋な圧縮力だけに変えてしまいます。鎖の両端を持って自然に垂らしたときにできるたるんだ曲線を、そのまま上下ひっくり返すと、押す力だけがはたらく、もっとも理想的なアーチの形ができあがります。
この原理のおかげで、2千年前のローマ時代に建てられた水道橋や神殿が、鉄筋なしで今も立っていられるのです。ポン・デュ・ガールの水道橋のように、モルタルを使わず石だけを噛み合わせて積んだものもあれば、パンテオンのように、ローマ式コンクリートでつくったものもあります。今日ではこの原理がさらに発展し、長い川を渡るアーチ橋や、巨大な屋内競技場のドーム屋根に広く使われています。
よくある誤解
アーチ構造は、石と石のあいだに接着剤やセメントを厚く塗らないと崩れてしまう。
ポン・デュ・ガールの水道橋のように、ローマ時代のアーチには、接着剤を使わず、石の台形の形と重力が生む噛み合う力(圧縮力)だけで、2千年近く持ちこたえてきたものもあります。
アーチは、上から押す垂直の重ささえきちんと受け止めれば十分だ。
曲線に沿って荷重が下りてくると、柱を外側へ押し出す水平の力が生まれます。そのため、左右が開かないよう押さえる控え壁や、固い地盤、鉄の棒(タイロッド)のような仕掛けが必要です。
日常で出会う場面
2千年前に石だけを噛み合わせて積んだのに、今も堂々と立っているフランスのポン・デュ・ガール(ローマ時代の水道橋)
柱が一本もないのに巨大な空間を覆っている、ローマのパンテオン神殿のドーム屋根(アーチをぐるりと回転させた構造で、鉄筋のないローマ式コンクリートで造られています)
卵の殻は薄いのに、手のひら全体で握ってもなかなか割れない、あの曲線の構造
つまり ひとことで
アーチは、上からの重さを曲線で分散させ、石どうしがしっかり押し合って支え合うようにした構造です。