定義
ベクターグラフィックス(Vector Graphics)とは、点や線、曲線などの幾何学的な図形の位置や形を計算式(数式)として記録し、画像を描く方式のことです。画面を無数の色の点で埋め尽くすビットマップ方式とは異なり、どれだけ拡大・縮小しても輪郭がギザギザになったりぼやけたりせず、くっきりとした鮮明さを保ちます。
モザイクタイルと建築設計図の違い
モザイク壁画を間近で見ると、四角いタイルが一つひとつ見えて輪郭がぼやけてしまいます。私たちがスマートフォンで撮影する写真や一般的な画像(ビットマップ)もこれと全く同じで、「ピクセル」と呼ばれる四角い点を細かく並べて作ったモザイク画のようなものです。そのため、無理に拡大すると点が大きくなって階段状のギザギザが現れます。
一方、ベクターグラフィックスはタイルを貼るのではなく、座標と数式で描かれた設計図に近い存在です。コンピュータに対して「どこに何色の点があるか」を保存する代わりに、「どの位置からどの位置まで、太さ2の青い曲線を引く」という命令(計算式)を記録しておきます。
そのため、画像を10倍、100倍に拡大しても、コンピュータはその都度数式に合わせて滑らかな線を再計算して描画してくれます。スマホの小さな画面で見ても、ビルの壁面に掲げる超巨大な看板に印刷しても、画質が落ちることなくいつでも鮮明な状態をキープできるのです。
ゴムひもを引っ張るように曲線を作る仕組み
コンピュータの中で滑らかな曲線を数学的に表現する際、最も広く使われているのが「ベジェ曲線(Bézier Curve)」です。始点と終点を打ち、その間に磁石のような役割を果たす「制御点」を置いて、線をピンと引っ張るような原理です。
マウスで制御点の位置や向きを少し引っ張るだけで、曲線の曲がり具合がリアルタイムに滑らかに変化します。デザイナーが描くあらゆる自由な線や形は、実はこうしたアンカーポイント(基準点)とハンドル(制御点)の座標データとして記録されています。
この仕組みの大きなメリットは、データ容量が驚くほど軽い点です。何百万個もの色のタイルを一つひとつ記録する必要がなく、いくつかの基準点の座標と線の色情報だけを保存すればよいため、シンプルなイラストならファイルサイズが非常に小さく軽量です。ただし、グラデーションや陰影が複雑に入り組んだ絵柄の場合は、かえってビットマップ画像より容量が大きくなることもあります。
ロゴには最適、写真には不向きな理由
ベクターグラフィックスは、企業のロゴやアイコン、フォント(文字)のように、サイズを自由自在に変える必要があるデザインに最も適しています。Webブラウザで画面をズームしても文字やボタンのアイコンがぼやけないのは、まさにこのベクター方式が採用されているからです。
しかし、どんな絵でもベクターが適しているわけではありません。カメラで撮った人物の顔や夕焼け空のように、無数の色が繊細に入り混じるリアルな景色を数式で表現するのは極めて難しく、コンピュータの計算負荷も膨大になってしまいます。
少し専門的に言うと、ベクター画像をディスプレイに表示するには、最終的に画面のピクセルに合わせて色を塗る「ラスタライズ(Rasterization)」という変換処理が必要です。図形が複雑になりすぎるとリアルタイムの計算に時間がかかってしまうため、実写写真はビットマップを使い、シンプルで輪郭がはっきりした画像にはベクターを使うのが一般的です。
よくある誤解
ベクター画像は、画面の解像度やモニターのピクセルとは完全に無関係に表示される。
保存形式そのものは解像度に依存しませんが、私たちがモニターで目にする最終段階では、必ず画面のピクセルに合わせて色を当てはめる「ラスタライズ」処理が行われています。
日常で出会う場面
画面を10倍に拡大しても輪郭が滑らかなパソコンのフォント(書体)
名刺から巨大な屋外看板まで、画質を落とさず拡大縮小して使える企業のブランドロゴ
Webサイトで拡大してもギザギザにならず、読み込みも速いSVGアイコン
つまり ひとことで
ベクターグラフィックスは、ピクセルの代わりに数式と座標で図形を記録することで、どれだけ拡大してもぼやけず鮮明さを維持できる画像形式です。