科学

ベルヌーイの定理

走る電車のそばに立つと、体が電車のほうへ引き寄せられる。その現象を説明してくれる、空気と水のルールです。

  • 約4分
  • 図 1点
  • 2026-10-14 検証

定義

気体や液体のように流れる物質(流体)の速さが増すと、その流体の内部の圧力はかえって下がる、という物理法則です。18世紀の科学者ダニエル・ベルヌーイがまとめた原理で、空気や水が速く流れている場所ほど、まわりを押す力が弱くなることを教えてくれます。

風が強いほど、なぜ圧力は下がるのでしょう?

紙を2枚、並べて持ち、そのすき間に思いきり息を吹きかけてみてください。常識的には、風で2枚の紙が外側へ大きく開きそうですが、驚くことに紙はお互いに向かってぴたっとくっつきます。よくベルヌーイの定理の例として紹介され、紙のあいだの狭いすき間を通って流れが速くなる部分で、空気の圧力がまわりの大気圧より低くなるからだと説明されます。ただし実際には、紙の表面に沿って流れる空気の粘性の効果も一緒に絡んでいます。

空気や水のように自由に流れる物質を、科学では「流体」と呼びます。流体にはいつも、圧力の高いところから低いところへ動こうとする性質があります。息のせいで紙の内側の空間の圧力が下がると、外側にあった相対的に圧力の高い空気が、2枚の紙を内側へ強く押しつけた、というわけです。

ここで、順番を逆に考えてはいけません。速さが圧力を削っているのではなく、流体が速くなるには、後ろから押す圧力が前側より大きくなければならないのです。そのため、ひと筋の流れをたどっていくと、流体が速くなる区間は圧力が低い区間といつもセットになっています。

暮らしのあちこちに隠れている、流れの魔法

化粧台に置いてある霧吹きや香水びんの仕組みも、ベルヌーイの定理ですっきり説明できます。霧吹きのレバーをぐっと押すと、ストロー上部の細い穴から、空気がとても速いスピードで噴き出します。すると、ストローの口のまわりの空気の圧力が一瞬で急激に下がります。

このとき、液体の表面はふだんどおりの大気圧を受けたままです。結果として、びんの中の液体は大気圧に押されて、圧力が下がったストローの上のほうへぐんぐん吸い上げられます。上へ飛び出した液体は、噴き出す速い空気の流れにぶつかって、細かい水滴の霧になって散らばるのです。

野球でピッチャーが投げる魔球のような変化球も、同じ原理に乗っています。ボールが速く回転しながら飛ぶと、片側は空気とぶつかって流れが遅くなり、反対側は回転の向きと風の向きが同じになって流れがとても速くなります。流れが速い側の圧力が下がることで、ボールが圧力の低い側へ曲がるマグヌス効果が生まれる、とよく説明されます(この圧力差は、回転するボールが後ろ側の空気の流れを一方向へ曲げて送り出すのと同じ現象を、別の角度から見たものです)。

もう少し正確に言うと

ベルヌーイの定理のいちばん深い根っこには、物理学の大原則である「エネルギー保存の法則」があります。閉じた管の中を流れる流体は、高さに応じた位置エネルギー、速さに応じた運動エネルギー、そして流体自身がもつ圧力のエネルギーを抱えています。摩擦を無視できるなら、ひと筋の流れに沿って、この3つの合計は一定に保たれます。

パイプが水平で位置エネルギーが変わらないなら、流体の速さが増して運動エネルギーが大きくなった分、圧力のエネルギーが必ず減らなければ、全体のエネルギーの合計は変わりません。つまり流体の速さと圧力は、一方が大きくなると他方が小さくなる、エネルギーのシーソーゲームをしているわけです。

よくある誤解に、飛行機の翼が空へ浮かぶ力(揚力)を、ベルヌーイの定理だけで全部説明しようとするものがあります。しかし、翼の上下でなぜ圧力差が生まれるのかは、翼が空気の流れを下向きに曲げる過程まで合わせて見ないと説明できません。圧力差で見る説明と、翼が空気を下へ押しやることで受ける作用と反作用の力で見る説明は、足し合わされる2つの力ではなく、同じ揚力を2つの角度から見たものです。

よくある誤解

誤解

飛行機の翼が上へ浮かぶ力は、ベルヌーイの定理だけで生まれる。

事実

ベルヌーイの定理で翼の上下の圧力差を計算することはできますが、翼が空気の流れを下向きに曲げることで生じる反作用(ニュートンの法則)でも、同じ揚力を説明できます。2つの説明は別々の力ではなく、同じ現象を見る2つの方法です。

日常で出会う場面

  1. 台風や突風のとき、建物の屋根の上側の圧力が下がって、屋根がめくれて飛ばされる現象です。

  2. 2隻の船が近くを並んで進むと、間を通る水の流れが速くなって圧力が下がり、お互いに引き寄せられようとする現象です。

つまり ひとことで

流体の速さが増すと圧力が下がります。これはエネルギー保存の法則にしたがって起こる現象です。

作成 2026-02-13 更新 2026-10-14 検証 2026-10-14