定義
激しい風雨が吹き荒れる巨大な台風の中心部に現れる、風がやんで青空が広がる円形の穏やかな区域のことです。周囲の空気が激しく回転することで生じる遠心力と、中心部で空気が押し沈む下降気流によって作られます。
なぜ嵐のど真ん中だけが静かなのか?
洗面台に水をためて栓を抜くと、水がぐるぐると渦を巻いて流れていきます。このとき、激しく回転する渦の中心をじっと覗き込むと、ぽっかりと穴が空いているのが見えます。
台風もこの水の渦とよく似ています。海から立ち上った巨大な空気の塊が、中心に向かって猛烈な勢いで吸い込まれながら回転するとき、外側へ弾き飛ばそうとする強い遠心力が働きます。この遠心力が、内側へ引き寄せようとする力と拮抗するため、空気は中心の限界まで突入できず、周囲をぐるぐると回り続けることになります。
その結果、渦のど真ん中には回転する空気の壁に囲まれた、強風や分厚い雲のない比較的穏やかな空間が残されます(もちろん空気自体は満ちています)。外側では恐ろしい暴風雨が吹き荒れていても、その中心に閉じ込められた空間だけは、嘘のように静寂が保たれるのです。
雲が消えて晴れる仕組み:下降気流の秘密
台風の目の中で風が穏やかになるだけでなく、厚い雨雲まで消え去るのには、もう一つの科学的な理由があります。それは、中心部の上空から地上に向かって空気がゆっくりと沈み込む弱い下降気流の存在です。
一般的に、雨雲は暖かく湿った空気が上昇して冷やされ、水蒸気が水滴や氷の粒へと凝結することで生まれます。逆に、上空から下へと空気が降りてくると、気圧が高くなるにつれて温度が上がる「断熱圧縮」という現象が起こります。
空気が温まると、含まれていた小さな水滴は瞬時に水蒸気へと蒸発してしまいます。そのおかげで分厚かった雨雲のカーテンが魔法のように晴れ渡り、昼間なら青空が広がり、夜なら満天の星がくっきりと見えることもあるのです。
目が通り過ぎても油断は禁物
激しく吹き荒れていた風雨が突然ピタリとやみ、青空が顔を出すと、「もう台風は過ぎ去った」と勘違いしてしまいがちです。しかし、これは嵐の終わりではなく、台風のど真ん中に足を踏み入れた合図にすぎません。
台風の目のすぐ外側は、「アイウォール(眼の壁雲)」と呼ばれる巨大な積乱雲の壁に取り囲まれています。ここは台風の中で最も激しい上昇気流が起きている場所であり、最も破壊的な暴風雨が吹き荒れる極めて危険なエリアです。
台風の中心が移動して目が通り過ぎると、つかの間の静寂は一瞬で終わり、先ほどとは正反対の向きから猛烈な暴風雨が再び襲いかかってきます。安心しきって外に出ると突如吹き荒れる暴風に巻き込まれて大変危険ですので、台風警報や注意報が完全に解除されるまでは、安全な屋内に留まる必要があります。
よくある誤解
台風の目に入って天気が良くなれば、台風は完全に消滅した証拠である。
台風のど真ん中に入っただけにすぎません。目が通り過ぎると、今度は反対側から最も危険なアイウォールの猛烈な暴風雨が再び襲ってきます。
日常で出会う場面
台風の中心が通過する間、急に風が弱まり、雲の切れ間から青空や日差しが差し込む。
気象衛星の画像で、巨大な渦巻き雲の真ん中にぽっかりと空いた丸い穴として観察される。
つまり ひとことで
激しい回転による遠心力と中心部の下降気流によって、猛烈な嵐のど真ん中に生まれる穏やかで晴れた区域のことです。