経済

炭素国境税(CBAM)

名前は「税」ですが、国境を越えてきた商品について、請求書ではなく証明書を買って、年に1回提出する仕組みです。

定義

EU(欧州連合)に入ってくる輸入品に対して、その商品をつくるときに出た炭素に値段をつける制度です。輸入する側が排出量を申告し、その排出量のうち決められた分だけ証明書を購入して提出します。正式名称は炭素国境調整メカニズム(CBAM)です。

値段といっしょに排出量も申告します

EUに鉄鋼を送る場面を思い浮かべてみましょう。通関書類には、これまでどおり品目と値段と数量を書きます。いまはそれとは別に、その鋼材をつくるときに出た炭素がどれくらいかを、別途申告します。

制度は二段階で導入されました。2023年10月から2025年末までは、排出量を報告するだけの期間でした。2026年1月1日から本格的な制度が始まり、輸入するたびに義務が積み上がっていきますが、証明書の販売は2027年2月1日からで、2026年に輸入した分は2027年9月30日までに、年次申告とあわせて証明書を提出します。

最初の対象は、セメント・鉄鋼・アルミニウム・肥料・電力・水素です。排出が多く、国境を越えて盛んに取引される品目から対象にしました。

ここで注目したい点がひとつあります。計算の基準は商品の値段ではなく、その商品についた排出量です。 同じ鋼材でも、どんな方法でつくったかによって、払う量が変わります。

名前は税ですが、払い方が違います

関税と並べてみると、違いがはっきりします。関税は税関が品目ごとの税率表にしたがって商品の値段にかけ、輸入する側はその金額を税金として払います。炭素国境調整では、輸入する側が1年分の排出量をまとめて申告し、その排出量を基準に計算した分の証明書を確保して、決められた時期に提出します。国境を越えてきた商品について払うのは、税金ではなく証明書なのです。

値段が決まる場所も違います。関税率は制度があらかじめ決めた数字です。証明書の価格は、EU排出量取引の競売価格に連動します。排出枠の市場で価格が上下すれば、証明書の価格も一緒に動きます。

炭素税とも分けて考える必要があります。炭素税は一つの国が自国の中で排出や化石燃料にかける税金で、炭素国境調整は国境を越えて入ってくる商品の側につける仕組みです。かける場所が国の中か国境かが分かれ目です。

排出量取引制度とは対になっています。EU域内の工場は、排出した分だけ排出枠を買って納める必要があります。域外でつくられて入ってきた商品にも、それに見合う証明書を出させることで、両方にかかる条件をそろえようという構造です。

そのため、申告した排出量のすべてに証明書がつくわけではありません。EU域内の工場がまだ無償で受け取っている排出枠の分は、輸入品からも差し引かれるからです。ただし、差し引かれる量は申告した排出量ではなく、製品ごとの基準値で決まります。 基準値はヨーロッパの効率のよい工場の水準なので、それより排出が多い工場の商品は、超えた分の証明書をそのまま出す必要があります。2026年はこの基準値の97.5パーセントほどが差し引かれ、この割合は年々小さくなって、無償の排出枠がなくなる2034年にはゼロになります。

もう少し正確に言うと:大義名分と、まだ整理中のこと

この制度が掲げる理由は、炭素リーケージ(炭素漏出)です。排出に値段をつける地域の工場が、値段をつけない地域へ移ったらどうなるでしょうか。その国の排出統計は減りますが、地球全体では減りません。排出が消えるのではなく、場所が移るだけで、その場所の移動を防ごうというのが、制度が掲げる大義名分です。

製造した国ですでに炭素の価格を払っていれば、その分を差し引く規定もあります。ただし、どの制度の価格まで認めるかという細かいルールは、まだ整理されている途中です。

開発途上国への負担が大きいという議論も続いています。ここでは、そうした議論が交わされているというところまでにとどめておきます。

実務の鍵は、排出量をどうやって測るかです。業界団体が産業全体について出す平均の集計は、制度が求める商品ごとの排出量とは別のものです。実際の排出量を測って渡せない場合は、EUが定めた既定値を使えますが、本格的な制度ではほとんどの品目の既定値に上乗せがつきます。そのため、つくる側が自社の工程の排出を別に測って渡すケースが多くなります。

よくある誤解

誤解

炭素国境税は、輸入品にかける関税の一種である。

事実

税関が税率表どおりに徴収する税金ではなく、輸入する側が証明書を確保し、申告した排出量を基準に計算した分を提出する仕組みです。価格も税率では決まらず、EU排出量取引の競売価格に連動します。

誤解

2023年に制度が始まったので、そのときから輸入者がお金を払っていた。

事実

2023年10月から2025年末までは、排出量を報告するだけの期間でした。本格的な制度は2026年1月1日に始まりましたが、2026年の輸入分に対する証明書は2027年2月から販売され、最初の提出期限は2027年9月30日です。

日常で出会う場面

  1. EUに鉄鋼を売る会社が、値段と数量を書いた輸出書類とは別に、その鋼材をつくるときに出た排出量をまとめて、輸入する側に渡すことです。

  2. EUの輸入者が、輸入した商品の排出量を基準に計算した分の証明書を確保しておき、決められた時期に提出することです。

つまり ひとことで

輸入品についた排出量を基準に計算した分の証明書を買って提出させる制度で、名前は税ですが、価格は排出枠の競売価格に連動します。

この概念が登場するストーリー

作成 2025-03-09 更新 2026-10-13 検証 2026-10-13