カミソリと替刃モデル

本体はタダ同然の安さで配り、定期的に買い換える消耗品でがっちり儲け続ける『釣り針』のような戦略です。

定義 基本となる製品(本体)を原価割れに近い格安価格で売ってまず顧客を囲い込み、その後使い続けるために必要な専用の消耗品を高めの価格で継続して買わせることで、長期的に大きな利益を上げるビジネスモデルです。

カミソリの本体はなぜこんなに安いのでしょうか?

ドラッグストアのカミソリ売り場に行くと、ずっしりと高級感のある最新型カミソリの本体が、替刃1〜2個付きで数百円という破格の安さで売られているのをよく見かけます。ほぼタダ同然のお得感に惹かれ、思わず買い物かごに入れてしまいますよね。

しかし、本当の『請求書』が届くのは数週間後です。刃の切れ味が落ちて新しい替刃を買いに行くと、手のひらサイズの替刃4個パックが、最初に買った本体の何倍も高いことに驚かされます。

企業は最初から本体を売って利益を出そうとは考えていません。本体で赤字を出してでも、一度消費者の洗面所に置いてもらいさえすれば、その後何年にもわたって高単価な専用替刃を買い続けてくれるというリピート消費の仕組みを狙っているのです。

本体を安価で売り高価な替刃で稼ぐ剃刀と替刃モデル図 剃刀本体(おとり) 3千₩ 初期の大幅割引 消耗品の反復購入 専用替刃(4個入) 3万₩ 真の収益源

プリンターからカプセルコーヒーまで、身の回りにあふれる『替刃』たち

この戦略は、私たちの身の回りのさまざまな製品に潜んでいます。代表例が家庭用のインクジェットプリンターです。本体は数千円程度の格安で手に入りますが、純正インクカートリッジを2回交換するだけで本体価格をあっさり超えてしまいます。

カプセル式コーヒーメーカーや家庭用ゲーム機も同じ仕組みで成り立っています。コーヒーマシンを安く普及させて毎月消費される専用カプセルで手堅く稼ぎ、ゲーム機本体は赤字覚悟で普及させて専用ゲームソフトのライセンス料で莫大な黒字を生み出します。

このモデルを成功させるには、消費者が他社の安い代替品に逃げられないように囲い込む技術的なロックイン効果が欠かせません。純正インクやカプセルに専用ICチップを組み込んで互換品を認識しないようにしたり、独自規格を開発して特許で保護したりするのです。

経済学の視点からもう少し詳しく

経済学では、これを相互補完関係にある2つの財の価格を非対称に設定する内部相互補助(クロス・サブシディ)戦略の代表例として説明します。一方の製品(本体)で生じた赤字を、もう一方の製品(消耗品)の高い利益率でしっかり回収する仕組みです。

かつてはカミソリやプリンターといったハードウェア中心でしたが、デジタル時代にはソフトウェアやサブスクリプションサービスへとさらに巧妙に進化しました。スマートフォンやタブレットを広く普及させた上で、アプリストアの手数料やクラウドストレージの月額利用料で安定したキャッシュフローを生み出すプラットフォーム企業は、まさに現代版の替刃モデルです。

消費者にとっては初期費用が安く、最新の機器を手軽に試せるというメリットがあります。しかし、使い続けるうちに消耗品の出費がかさみ、総保有コスト(維持費)が膨らみやすいため、製品を選ぶ際は本体価格だけでなく、その後に継続してかかる費用までしっかり見極めることが大切です。

🤔 よくある誤解

✕ 誤解

カミソリの本体が安いのは、製造コストが低く品質が劣っているからだ。

✓ 事実

本体にはむしろ高度な技術が詰め込まれており、製造コストが高いことも珍しくありません。企業が後から消耗品の販売でより大きな利益を得るために、本体を原価割れの赤字で売っているのです。

🧺 日常で出会う場面

1 数千円のプリンターを買った後、数千円する純正インクカートリッジを定期的に交換しながら使い続けるケースです。
2 カプセル式コーヒーメーカーを安く購入し、毎月専用のコーヒーカプセルを定期注文して楽しむケースです。
💡 つまり ひとことで

本体をあえて赤字覚悟の安値で売って顧客を囲い込み、継続して必要な専用消耗品を高値で販売して利益を最大化するビジネス戦略です。