定義
特定の行動の後に与えられる報酬(ご褒美)や罰が、その行動を繰り返すかどうかを決定づけるという原理を精密に研究するため、心理学者のスキナーが考案した実験装置です。自発的に取った行動の結果が良いものであればその行動は増え、不快な結果であれば減っていくという仕組み(オペラント条件づけ)を明らかにしました。
偶然のしぐさが「習慣」に変わるまで
お腹をすかせた1匹のネズミを、何もない実験用の箱に入れた場面を想像してみてください。ネズミはあちこち歩き回り、壁を引っかいたり匂いをかいだりするうちに、壁から突き出た小さなレバーを偶然カチャリと押してしまいます。その瞬間、コロンとおいしいエサが1粒転がり出てきます。
最初、ネズミはなぜエサが出たのか分かっていません。しかし、歩き回るうちに再びレバーを押してエサを手に入れる体験を何度か繰り返すと、状況は一変します。ネズミは「レバーを押せばおいしいものがもらえる」というルールをすばやく学習し、お腹が空くたびに迷わずレバーを押し続けるようになるのです。
このように、生きものが自発的にある行動を起こし、その結果として嬉しい見返りを得ることで、その行動をますます繰り返すようになる現象を報酬による行動の強化と呼びます。逆に、レバーを押した瞬間にビリッと電気ショック(罰)が走るようにすると、ネズミがレバーを押す回数は目に見えて減っていきます。
何回目で出るか分からないとき、人はもっともハマる
研究者たちはさらに一歩進めて、非常に興味深い実験を行いました。レバーを押すたびに毎回エサをあげるのではなく、3回に1回だったり10回に1回だったりと、ランダムに変わる仕組みにしたのです。
驚いたことにネズミは、エサが毎回確実に出るときよりも、何回押せば出るかまったく分からないときのほうが、はるかに猛烈な勢いでレバーを押し続けました。それどころか、エサの供給を完全に止めてしまっても、毎回もらっていたネズミよりずっと長い間、諦めずにレバーを押し続けたのです。
これこそが、スロットマシンやガチャ(くじ引きゲーム)が人々を夢中にさせる秘密です。決まりきった報酬よりも、予測できない不規則な報酬に出会ったときのほうが、私たちはその行動に執着し、やめられなくなってしまうのです。
もう少し正確に言うと(パブロフの犬との違い)
有名な「パブロフの犬」の実験と混同されがちですが、この2つには決定的な違いがあります。ベルの音を聞いてヨダレを垂らす犬は、自分の意志とは関係なく体が勝手に反応してしまう「無条件反射」と結びついた受動的な学習です。
一方、この箱の中のネズミは、周囲を探索しながら自ら選んだ能動的な行動と、その後に起こる結果を結びつけて学びます。これを心理学では「オペラント条件づけ」と呼びます。自分が環境に働きかけ、それによって返ってきた結果をセットで記憶するわけです。
現代のスマートフォンアプリやSNSも、まさにこのスキナー箱と同じ原理が働いているとよく指摘されます。画面を下に引っ張って更新するたび、面白い投稿があるかないか分からないあのワクワク感が、私たちの指を休むことなく動かし続けさせているのです。
よくある誤解
スキナー箱は、動物や人間を拷問・洗脳するために作られた残酷な装置だ。
洗脳装置ではなく、生きものが自らの行動の結果から学ぶという自然な学習プロセスを観察・解明するために作られた、純粋な学術用の研究装置です。
日常で出会う場面
犬に「おすわり」と言って座ったときにご褒美のおやつをあげてしつけたり、トイレシートの上で排泄できたときに褒めるプロセス
SNSアプリで画面を下に引っ張って更新し、新しい面白い投稿がないかつい何度も確認してしまう行動
つまり ひとことで
行動の直後にやってくる「報酬(ご褒美)」や「罰」の与え方によって、生きものの次の行動が形づくられます。