定義
皆既日食とは、月が太陽と地球のちょうど一直線上に入り、太陽全体を完全に隠してしまう天文現象です。太陽の光が完全にさえぎられるため、昼間でも夜のように空が真っ暗になり、星が姿を現します。
大きさがまったく違うのに、なぜぴったり隠せるの?
目の前に親指をぐっと近づければ、遠くにそびえる大きな山もすっぽり隠せますよね。物の実際の大きさに関係なく、目からの距離によって見かけの大きさが変わるからです。
実は、太陽の直径は月の約400倍もあります。ところが不思議なことに、地球から太陽までの距離も、月までの距離の約400倍なんです。
そのおかげで、地球から見上げる太陽と月は見かけの大きさがほぼ同じになります。だから月が地球に近いときには、太陽をすき間なく覆い隠せるのです。
ただし、月の公転軌道は楕円なので、地球との距離は変わります。月が遠いときに日食が起こると、月は太陽より少し小さく見えて、太陽の縁がリング状に残る金環日食になります。金環日食も皆既日食と同じくらいの頻度で起こります。
昼が夜に変わる一瞬に起きること
月が太陽を完全にのみ込む瞬間、まぶしかった真昼が、あっという間に薄暗い夜のようになります。地平線のまわり360度に夕焼けのような色が広がり、気温も数度以上すっと下がって、ひんやりした風が吹いてきます。
突然の暗闇に驚いた鳥は、夜が来たと思って巣へ戻ります。昼に活動していた虫は静かになり、コオロギのように夜に鳴く虫は、逆に鳴き始めることもあります。昼には見えない明るい惑星や星が空にきらめき、神秘的な光景が広がります。
このとき、普段はまぶしすぎて見えない太陽のいちばん外側の大気層、白いコロナ(Corona)が、暗い空にほのかな王冠のように幻想的な姿を現します。
月が太陽を完全に隠す直前と直後には、月の表面のでこぼこした谷あいから一筋の強い光がもれ出し、まるで宝石の指輪のように輝くダイヤモンドリング現象も見られます。
もう少し正確に言うと
月は約1か月に1回、地球のまわりを回り、太陽と地球の間を通ります。それなら皆既日食も毎月起こりそうですが、実際にはごくまれにしか起こりません。
その理由は、月が地球を回る公転軌道が、地球が太陽を回る軌道面に対して約5度傾いているからです。
ほとんどの月では、月の影は地球の上や下の宇宙空間をかすめて通り過ぎてしまいます。新月が2つの軌道の交差点の近くで起こってはじめて、月の影が地球に届いて日食になります。そのうち、月が十分に近くて太陽を覆い尽くせるときに、皆既日食になるのです。
さらに、月の本影が地球の表面にかかる幅は、たいてい100〜200kmほどとても狭いものです。そのため、地球全体では1〜2年に1回ほど起こりますが、特定の場所で皆既日食が見られるのは平均で約375年に1回(天文学者ジャン・ミーウスの計算)という、とても珍しい現象なんです。
よくある誤解
皆既日食の瞬間には、太陽から特別に危険な光線が出る。
皆既日食のときに太陽が放つ光とエネルギーは、普段とまったく同じです。危険なのは、太陽の一部が見えている部分日食の段階や、皆既の瞬間が終わって光が戻ってくるときに、太陽を直接見てしまうことです。普段と同じ強い光が網膜を傷める可能性があるからです。
日常で出会う場面
2017年にアメリカの西海岸から東海岸までを横断し、数百万人が皆既日食の通り道へ観測に訪れた「グレート・アメリカン・エクリプス」が代表的です。
1919年の皆既日食では、太陽の近くに見える星の光が太陽の重力で曲がる度合いを観測し、アインシュタインの一般相対性理論の予測と合う結果が得られました。この観測は、理論が広く受け入れられるきっかけになりました。
つまり ひとことで
太陽と月の距離と大きさの比がみごとに噛み合い、月が太陽を完全に隠して、神秘的なコロナを見せてくれる現象です。