定義
合唱団は、たった一人が音を外しただけでも、ハーモニーが乱れてしまいます。電気自動車のバッテリーも、小さなセル数百から数千個が一緒に声を出す合唱団のようなもので、セルごとの状態を見守る管理役が必要です。バッテリーマネジメントシステムは、セルの電圧と温度を測り、充電と放電を調整して、安全な範囲の中だけで使われるようにする装置です。
いちばん弱いセルが全体を左右します
電気自動車のバッテリーは、小さいものでは手のひらほどのセルを数百個、多いものでは指ほどのセルを数千個つなぎ合わせてつくられています。この一つひとつのセルを「セル」と呼び、管理する装置は英語の頭文字をとってBMSとも呼ばれます。大勢の人が一列に手をつないで歩く姿を思い浮かべると、わかりやすいでしょう。
セルは、つくられた時点でごくわずかな差があり、使っているうちにその差が広がっていきます。あるセルが先にいっぱいになったら、ほかのセルが満たされていなくても、充電をやめなければなりません。そのため、バッテリー全体の性能はいちばん弱いセルに合わせて決まってしまいます。
BMSは、セルごとに電圧を測り、先に進んだセルの電気を少し逃がしたり、遅れたセルをさらに満たしたりして、列をそろえます。この作業をセルバランシングと呼びます。
列がよくそろっているほど、同じバッテリーでもより遠くまで走れて、より長く使えます。
危険な線を越えないように
リチウム電池は、決められた電圧と温度の範囲を外れると、危うくなります。入れすぎると内部で望ましくない化学反応が起こり、空にしすぎると元に戻しにくい傷みが残ります。
BMSは、セルの電圧、流れる電流、あちこちの温度を休みなく読み取っています。値があらかじめ決めた線を越えると、充電の速さを落としたり、回路そのものを切ったりします。冬に充電がゆっくりに感じられるのも、冷えたセルを守るための判断であることが多いのです。
一つのセルで熱が急に上がると、隣のセルへ燃え移ることがあります。そのため、異常のサインが見つかったら、冷却装置を回し、回路を切ってそれ以上の熱をためこまないようにし、運転者に警告を送ります。すでに広がり始めた熱を食い止める役目は、セルのあいだの断熱材のようなバッテリーの構造が、いっしょに担っています。
事故が起きてから対応するというより、値がおかしくなりかけたきざしを先に捕まえることに近い働きです。
もう少し正確に言うと
もう少し正確に言うと、画面に表示されるバッテリー残量は、直接測った値ではありません。残っている電気の量は、桶に入った水のように目で確かめることができません。BMSが電圧と出入りした電流、温度を集めて計算で割り出した推定値なのです。
そのため、残量表示がふらふらと揺れることもあります。短い充電を何度もくり返すと、計算の基準が少しずつずれていくからです。長く使った機器で残量が急にガクッと落ちるのも、このずれに関係しています。
満タンという表示も、バッテリーが入る限界いっぱいまで満たされた状態を意味するわけではありません。寿命を守るために上にも下にも余裕を残しておき、その内側だけをユーザーに見せているのです。
おかげで私たちは、残りの余裕を気にせず、表示された数字だけを見て使えます。
よくある誤解
バッテリーマネジメントシステムは、充電をより速くしてくれる装置だ。
速くすることが目的ではありません。温度や電圧が危うい方向へ傾くと、むしろ速度を落としたり充電を止めたりして、バッテリーを守ります。
充電が満タンと表示されたら、バッテリーが入る限界まで満たされている。
BMSは寿命のために上にも下にも余裕を残し、その内側の区間だけを見せています。表示された値と実際の物理的な限界は、別の話です。
日常で出会う場面
真冬の屋外で電気自動車を充電するとき、最初のしばらくのあいだ充電の速度が遅くなる場合です。
ノートパソコンやスマートフォンのバッテリー保護機能が、ある水準で充電を止め、それ以上は満たさない場合です。
つまり ひとことで
バッテリーのセルごとに電圧と温度を測って、充電と放電を安全な範囲に収め、セルどうしのバランスや残量まで管理する電子装置です。