定義
選択アーキテクチャとは、人が何かを選ぶときに目にする選択肢の順番やデフォルト(初期設定)、並べ方をつくる仕事のことです。どう並べても選択には影響が出てしまうため、どの選択肢も強制的に禁止したり、経済的なインセンティブを大きく変えたりせずに、人がより良い決定をしやすいよう並べ方を工夫する方法を「ナッジ」と呼びます。
ビュッフェのお皿に載る料理が変わる理由
学校の給食室やビュッフェレストランに入ったときのことを思い出してみてください。入口のすぐ前、いちばん手が届きやすい目の高さの棚に新鮮なサラダを置いたら、どうなるでしょうか。奥にある油っこいフライドポテトより、手前にある野菜を先に取る人が増えます。
お店はフライドポテトを禁止したわけでも、値段を上げたわけでもありません。ただ料理を置く場所と並べる順番を変えただけなのに、人々の選択ははっきり変わります。このように、選択肢をどんな形で見せるかを決める人が「選択アーキテクト(選択設計者)」です。
私たちは、自分は合理的に、自由に決めていると思いがちです。けれど実際には、選択肢の目立ち方や文字の大きさ、メニューの中での位置といった、ささいな周りの環境に大きく左右されています。
何もしなくても選ばれる、デフォルトの力
選択アーキテクチャで最も強力で、広く使われている道具が「デフォルト(初期設定)」です。スマホのアプリを新しく入れるとき、利用規約への同意チェックボックスが最初からオンになっていたり、マーケティングメールの受信がデフォルトで許可されていたりした経験はありませんか。たいていの人は、面倒な設定変更をするより、最初に与えられた状態をそのまま使い続けます。
臓器提供の同意率にも、この効果がはっきり表れています。2003年にヨーロッパ各国を比べた研究(Johnson & Goldstein、Science)では、提供したい人だけが申し込む国の同意率は約4〜28%でした。一方、最初から提供者として扱い、望まない人だけが拒否を申請する国では、86%からほぼ100%に達しました。ただしこれは、拒否しなかった人まで含めた同意率で、実際の提供件数の差はこれよりずっと小さいという分析もあります。
設定を変える手間を避けたい惰性、デフォルトを設計者のおすすめ案と受け取る傾向、デフォルトを基準点にして変えると損をした気分になる心理などが重なり、人は自動的に決まっている初期の選択に従いやすくなります。そのため、どの項目をデフォルトにするかによって、社会全体の結果がまるで違ってくることもあります。
もう少し正確に言うと:自由を損なわない介入
もう少し正確に言うと、選択アーキテクチャのうち、選択の自由を残したままより良い決定を助ける方法が「ナッジ」です。ナッジは「リバタリアン・パターナリズム(自由主義的介入主義)」という考え方に基づいています。自由と介入は矛盾しているように聞こえますが、人々のより良い暮らしのためにそっと後押しをしつつ(介入主義)、望めばいつでも別の選択ができる選択の自由をしっかり残しておく方法(自由主義)なのです。
ナッジは、強制や罰則、法律による禁止とは違います。望まない選択肢をいつでも選べる「抜け道」が必ず用意されていてこそ、ナッジと呼べます。
もし企業がこの原理を悪用して、決済のキャンセルを難しくしたり、サブスクの解約を迷路のように複雑にしたりすれば、それはナッジではありません。選択アーキテクチャを消費者に不利に使った「ダークパターン」や「スラッジ(Sludge)」になります。
よくある誤解
選択アーキテクチャは、人をだまして特定の選択を強制するトリックだ。
選択アーキテクチャそのものは、良い方向にも悪い方向にも使える中立的な考え方です。その中でもナッジのように、選択の自由を残したままより良い決定を助ける設計は、強制とは違います。ただし同じ原理を悪用すると、ダークパターンになることがあります。
日常で出会う場面
退職年金(企業年金)の加入方法を「自分で申し込む」から「自動加入にして、望まなければ脱退する」に変えて、加入率を大きく引き上げた事例があります。
高速道路の分岐点にピンク色と緑色の誘導ラインを描き、ドライバーが正しい車線を選びやすくしました。
つまり ひとことで
選択肢の見せ方や順番をつくる仕事で、人がより良い決定をするのを助けることにも、不利な方向へ導くことにも使えます。