定義
頻度錯覚(バーダー・マインホフ現象)は、知ったばかりの物事や関心を持ち始めた物事が、突然あちこちに頻繁に現れるように感じる心理的な錯覚です。実際の数はほとんど変わっていないか、少し変わっただけなのに、脳がその情報を拾いやすいようにアンテナを立てているため、ずっと増えたように感じてしまうんです。
昨日覚えた言葉が、今日さっそくニュースに出てきたのはなぜ?
新しいスマホの機種や、耳慣れないカタカナ語を初めて知った日を思い出してみてください。不思議なことに、その日の午後にバスの広告でまさにそのスマホを見かけ、夜のニュースや友だちとの会話でも、覚えたての言葉が立て続けに聞こえてくる、という経験はありませんか?まるで世界中が示し合わせて、知ったばかりの知識を目の前に差し出してくるような気分になりますよね。
こんなことが起きると、私たちは「世の中でその対象が急に増えた」と思い込みがちです。でも世の中は、たいてい昨日とほとんど同じです。実際の数が変わっていなくても「ずっと増えた」と感じさせるのは、その情報を処理する脳の関心フィルターなんです。
私たちの脳は、1日に何万もの感覚情報を受け取っています。普段は不要な情報を静かに取り除いていますが、一度強く意識された対象は、脳の中の「優先順位リスト」に載ります。だから、以前なら気にも留めず通り過ぎていた風景の中でも、その対象だけがくっきり浮かび上がって見えるようになるんです。
選択的注意と確証バイアスの合わせ技
頻度錯覚は、心理学でいう2つの脳のしくみが組み合わさって起こります。1つ目は「選択的注意(注意を一か所に集める集中力)」です。たくさんの刺激の中から、脳が興味を持った信号だけを虫眼鏡でのぞくようにピンポイントで捉える働きですね。
2つ目は確証バイアス(自分の考えに合う証拠ばかり集めようとする習慣)です。その対象が目に入るたびに、脳は「ほら、本当に急に増えてる!」と、記憶に強く刻み込みます。逆に、その対象が見当たらなかった無数の瞬間は、まったく記憶に残しません。
こうして脳は、見つけた瞬間だけをせっせと集めて統計を作ってしまいます。その結果、実際はずっと身の回りにあった平凡なものが、一晩で爆発的に流行しているように感じられる錯覚が出来上がるんです。
もう少し正確にいうと
この現象は「バーダー・マインホフ現象」とも呼ばれます。1994年にアメリカのある新聞の読者投稿欄に、「バーダー・マインホフという名前を初めて聞いた翌日に、また耳にした」という体験談が載ったことが由来です。のちに言語学者のアーノルド・ズウィッキーが、2005年に「頻度錯覚」という名前をつけました。
もう少し正確にいうと、この現象は記憶と知覚の錯覚であり、世の中の実際の統計的な変化とは別に起こります。脳が特定の対象(単語・物・概念)に目印をつけたことで、以前はただ素通りしていたものを、ずっと頻繁に見つけられるようになる、つまり認知的な感度の上昇が起きているんです。
このしくみを知っておくと、日常で出会うたくさんの偶然を落ち着いて眺められます。「世界は私を中心に回っているの?」と思う代わりに、自分の脳が新しい情報をそれだけ敏感に学習している、かわいらしい証拠として受け止めればいいんです。
よくある誤解
よく目につくと感じる対象は、間違いなく実際に急に流行したり増えたりしている。
実際の頻度はほとんど変わっていないか、少し変わっただけなのに、体感の頻度はずっと大きく増えます。脳がその対象を感知する感度と注意力が高まり、より頻繁に気づくようになるからです。
日常で出会う場面
買おうと決めた車種が、道路にやたらとあふれ出したように感じるときです。
昨日初めて知った見慣れない四字熟語が、今朝の新聞や本で次々と目に入ってくる瞬間です。
つまり ひとことで
新しく知った対象がよく目につくのは、世の中が大きく変わったからというより、脳の関心アンテナがオンになったからなんです。