定義
服を着るときにトップスとボトムスの色を合わせるように、言語において名詞をいくつかの種類に分け、形容詞や冠詞の形を連動させて合わせるルールのことです。机やりんご、太陽といったモノにも、生物学的な性別とは関係なく男性や女性といった文法上の分類が割り振られます。ただし、人を表す名詞はおおむね実際の性別と一致します。動物の名前は、オス・メスに関係なく性が一つに決まっていることがよくあります。
なぜモノに性別がついているの?
フランス語では太陽は男性名詞で月は女性名詞ですが、ドイツ語に行くと太陽が女性名詞で月が男性名詞になります。同じ自然現象であっても、言語によって性別が真逆になるのです。モノ自体に本物の女性らしさや男性らしさが宿っているわけではありません。
言語学者たちは、文法的性を名詞を分類するための引き出しのようなものだと説明します。インド・ヨーロッパ語族の場合、祖先にあたる言語に「生物」と「無生物」を分ける区分があったと考えられています。その後、生物側が男性と女性に分かれ、無生物側が中性へと受け継がれたという説が有力です。他の語族における性の体系は、起源がそれぞれ異なります。
結局のところ、文法的性は生物学的な性別を意味するものではありません。単語を一定のルールでグループ分けし、文を整然と組み立てるための体系的な言語の仕掛けなのです。
もう少し正確に言うと:文法的性にはどんなメリットがあるの?
外国語を学ぶとき、名詞の性別を一つひとつ覚えるのはかなり骨が折れる作業に思えます。しかし、その言語を使う人にとっては意外な助けになることもあります。場合によっては、文の意味を明確につなぎ合わせる役割を果たしてくれるからです。
例えば、長い文の中に複数の名詞が同時に登場することがあります。「机の上にランプを置いたが、それがとても熱かった」のように対象が重なると、「それ」が机なのかランプなのか迷いやすいですよね。
ドイツ語では机(der Tisch)が男性、ランプ(die Lampe)が女性なので、受ける代名詞もそれぞれ er と sie で異なります。このように二つの名詞の性が異なるときは、単語の形を見るだけでどちらを指しているのかが一目でわかります。もちろん、二つの単語の性が同じであればこの方法では見分けられないため、性がある言語だからといって代名詞が常に明確になるとは限りません。
世界のすべての言語に文法的性があるの?
私たちの日本語や英語には、モノごとに男性や女性を割り振るルールはありません。英語は過去に複雑な性の区別を持っていましたが、歴史の変遷とともに次第に失われました。そして日本語は、もともと名詞に性別をつけない言語です。
一方でフランス語、スペイン語、ドイツ語、ロシア語など多くの言語は、今も性のルールを保っています。フランス語のように男性と女性の二つに分ける言語もあれば、ドイツ語やロシア語のように中性を含めた三つに分ける言語もあります。
さらに、スワヒリ語などのバントゥー語群の言語では、男性・女性ではなく10〜20個前後の多様な引き出し(名詞クラス)で名詞を分類します。各クラスはおおむね人間、樹木・植物、道具といった意味合いと関連する傾向があります。このように文法的性は、人類が世界を観察し、言葉を体系的に整理してきた興味深い言語の知恵なのです。
よくある誤解
文法上の女性名詞は「女性らしいモノ」に、男性名詞は「男性らしいモノ」につく。
文法的性は単語の形態的・歴史的な分類にすぎず、モノが持つ実際のイメージや性質とは直接関係ありません。言語によって同じモノに与えられた性が正反対であることも珍しくありません。
日常で出会う場面
フランス語では、りんご(pomme)は女性名詞ですが、本(livre)は男性名詞です。
ドイツ語で「少女」を意味する単語(Mädchen)は、生物学的には女性ですが文法上は中性名詞です。
つまり ひとことで
文法的性は生物学的な性別ではなく、名詞をグループごとに整理して文の意味関係を明確につなぐための言語の分類システムです。