科学

干潟(ひがた)

海が満ち潮と引き潮に合わせて1日2回ひらいたり閉じたりする、巨大な天然の浄水器であり、生きものたちの憩いの場です。

  • 約3分
  • 図 2点
  • 2026-10-13 検証

定義

1日に2回、海水が満ちたり引いたりすることで姿を現す、平らで広い海岸地形です。陸から流れてきた細かい泥や砂が長い年月をかけて穏やかな海にたまってできたもので、たくさんの生きものの住みかであり、有機汚濁物質を浄化する自然の憩いの場でもあります。

海が息を吐くときに現れる不思議な大地

海辺といえば、いつも波が打ち寄せる砂浜ばかりを思い浮かべるかもしれませんが、実はそうとは限りません。波がとても荒い海では軽い泥は全部流されてしまいますが、波が穏やかで水深の浅い海辺には、とても細かくやわらかな泥の粒子が静かに底へ沈んでいきます。

ここに、月と太陽の引力によって海水が周期的に満ちたり引いたりする満ち潮と引き潮の現象が力を貸します。潮が満ちてくるとき、海から運ばれた細かい泥がゆっくり底に積もり、潮が引くにつれて、広くなだらかな泥の地面が外に姿を現します。

こうして数千年ものあいだ、微細な堆積物が少しずつ積み重なり、満ち潮のときは水に沈み、引き潮のときは姿を現す土地ができあがります。水と土が出会ってつくられたこの境界は、生命力が際立って豊かな特別な環境になります。

汚れた水をきれいにこす地球の腎臓

陸の川や町から出た生活排水のかすが、そのまま深い海へ流れ込んだらどうなるでしょう。海はたちまち腐り、魚は住めなくなってしまいます。干潟は陸と海のあいだにあって、この有機物や栄養塩をこしとる巨大な天然フィルターの役割を果たしています。

干潟の泥の中には、数えきれないほどの細菌や珪藻のような微細な藻類が暮らしています。この微生物たちが、陸から流れてきた有機物やかすをせっせと分解して、栄養分に変えてくれます。さらにアサリやハマグリのような二枚貝、ゴカイの仲間が、水中のプランクトンや不純物をひっきりなしにこして食べ、海水を浄化します。

実際、よく保全された干潟は下水処理場に匹敵する浄化能力があると評価されています。私たちの体の老廃物をこしとる腎臓のように、有機汚濁物質を分解するすごい役割を担っているのです。ただし、重金属のような一部の汚染物質は分解されず、泥や貝の体内にたまることがあります。汚染が処理できる量を超えると、干潟も傷んでしまいます。

もう少し正確にいうと:炭素を閉じ込める巨大な金庫

かつては、干潟をただのぬかるんだ役に立たない泥地とみなし、堤防を築いて土を埋め立て、農地や工場に変える干拓事業がたくさん行われました。しかし現代の生態学や気候科学は、干潟が地球環境を守る大切な財産であることを示しています。

干潟は、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を吸収してため込むブルーカーボン(海洋生態系が隔離する炭素)の貯蔵庫として注目されています。国際的な指針(IPCC)が認めているブルーカーボンはマングローブ・塩性湿地・海草藻場で、植物が育たない干潟を対象に含めようという議論が続いています。干潟の表面の微細藻類が光合成で炭素を吸収し、生きものが死ぬと泥の深いところに埋まります。

干潟の深いところはほとんど酸素が届かない状態なので、埋まった炭素は分解されにくく、数千年にわたって地中に閉じ込められることがあります。ただし、干潟を埋め立てたり掘り返したりすると、閉じ込められていた炭素が再び出てくるおそれがあります。

よくある誤解

誤解

干潟は生きものが住みにくい、役に立たないぬかるみの土地だ。

事実

干潟は単位面積あたりの生産性が高く、微生物から貝・カニ・ゴカイ・水鳥まで豊かな生きものが暮らす、生態系の宝庫です。

日常で出会う場面

  1. 引き潮のときに泥の上をはい回るムツゴロウやカニを観察できる、有明海などの干潟です。

  2. シベリアからオーストラリアへ渡る数万羽のシギ・チドリ類が、途中でエネルギーを補給しに立ち寄る休息地です。

つまり ひとことで

干潟は満ち潮と引き潮がつくる海岸地形で、有機汚濁物質をこしとり、大量の炭素を閉じ込め、数多くの生命を育む、地球の天然の宝物です。

作成 2024-10-06 更新 2026-10-13 検証 2026-10-13