レンズ雲

強風が吹き荒れる山頂に、まるで静止画のようにじっと浮かぶ「空飛ぶ円盤」の形をした帽子です。

定義 レンズ雲(レンズ状雲)は、強い風が高い山を越えるときに発生する、凸レンズや空飛ぶ円盤(UFO)のような独特な形の雲です。周囲には猛烈な風が吹いているのに、雲そのものは空の一点にピタッと止まっているように見えるのが特徴です。

なぜ「空飛ぶ円盤」の形になるの?

速く流れる川の中に大きな岩があると、岩の後ろで水面が上下に波打ち、一定の波ができますよね。空を流れる空気もまったく同じです。巨大な山脈にぶつかった風は、山を駆け上がったあと、山を越えた風下で上下に大きくうねる山岳波(大気の波)を作り出します。

空気中に含まれる水蒸気は、高いところへ昇るほど周囲の気圧が下がり、温度も低下します。空気がうねる波のいちばん高い頂上まで押し上げられると、露点(水蒸気が水滴に変わる温度)に達して水滴へと凝結し、丸みを帯びた雲のかたまりになります。

反対に、空気が波の谷底へと下降すると、気温が再び上がって水滴が蒸発し、目に見えない透明な水蒸気へと戻ります。このように、空気が急上昇する波の頂上でのみ雲が作られるため、滑らかなレンズや皿のような形になるのです。

レンズ雲の形成と山岳波の原理 レンズ雲 空気上昇→冷却し凝結 空気下降→加熱し蒸発 風 (水蒸気) 山脈 山岳波 (大気波)

風が強いのになぜ動かないの?

ふつうの雲は風に乗って空をすべるように流れていきます。しかし、レンズ雲は時速100キロメートルを超える台風並みの強風の中でも、ビクともせず同じ場所にとどまり続けます。そのため昔の人はこれを見て、空中に静止したエイリアンの宇宙船(UFO)と見間違えることもよくありました。

ですが、雲を作っている空気そのものが止まっているわけではありません。公園の噴水から吹き上がる水の柱を思い浮かべてみてください。水柱の形そのものは同じ場所にとどまって見えますが、水分子そのものは猛烈なスピードで吹き上がり、落ちていきますよね。

レンズ雲もこれと同じです。強い風が雲の中を矢のように吹き抜けています。風が吹き込んでくる風上側で新しい雲が次々と作られ、風が抜けていく風下側では雲が即座に蒸発して消えています。つまり、同じ場所で発生と消滅が絶え間なく繰り返されているため、私たちの目には止まっているように見えているだけなのです。

もう少し詳しく言うと

もう少し正確に言うと、レンズ雲は大気中で発生する定在波(定常波:波形が移動せずその場で振動する波)の現象が目に見える形になったものです。大気の状態が安定し湿度がちょうどよいときは、山の風下に向かって波が何重にも連なり、お皿を何枚も積み重ねたパンケーキのような多層の雲が現れることもあります。

レンズ雲が空に浮かんでいるということは、その周囲で目に見えない激しい乱気流や渦巻き風が吹き荒れている明確な証拠です。見た目は湖の水面のように滑らかで穏やかに見えますが、雲の内部や下層には航空機を激しく揺らす強力な下降気流が潜んでいます。

このため、飛行機のパイロットたちは空にレンズ雲を発見すると危険区域と判断して遠くへ迂回します。大自然が空に掲げた、もっとも美しい危険警告ランプといえるでしょう。

🤔 よくある誤解

✕ 誤解

レンズ雲は、風がまったく吹かない穏やかで静かな日にだけ現れる雲である。

✓ 事実

まったくの逆です。レンズ雲は、高い山脈を吹き越える時速数十〜数百キロメートルもの非常に強い上空の風があって初めて生まれます。

🧺 日常で出会う場面

1 富士山などの独立峰の山頂に、傘や帽子のようにすっぽりかぶさる「笠雲(かさぐも)」や、風下に浮かぶ「つるし雲」です。
2 晴れた日に山脈の風下の空に、UFOが浮かんでいるかのように何層にも重なって見える雲です。
💡 つまり ひとことで

レンズ雲は、強い風が山を越えて空気の波(山岳波)を作るとき、波の頂上で水蒸気が発生と蒸発を繰り返すことで、その場にじっと止まって見える雲です。