定義
陸上競技のスタートラインのように、地球の東と西の位置を測るために人類が定めた経度0度の基準線です。北極と南極を結ぶ無数の縦のライン(子午線)の中で、時間と位置を計算する出発点となる線です。
なぜ地球に「縦の基準線」が必要だったのか?
地球儀を見ると、横のライン(緯度)と縦のライン(経度)が格子状に引かれています。横の基準である「赤道」は、地球の自転軸のちょうど真ん中にあたるため、誰もが自然な出発点としてすんなり合意できました。
しかし、縦のラインは事情が異なりました。丸い球体である地球は、どの縦の線を見ても同じ形をしているため、自然に決まる出発線が存在しません。そのため昔は、国ごとに自分の国の首都や有名な天文台を経度0度に定め、それぞれ勝手に地図を作っていました。
フランスはパリ、イギリスはロンドンを基準にしていたため、海を渡る船は大混乱に陥りました。鉄道が発達し世界が一つにつながっていくにつれ、誰もが共通して使える世界共通の縦のスタートラインを決める必要に迫られたのです。
グリニッジ天文台が基準に選ばれた理由
1884年、アメリカのワシントンで開かれた国際会議に25か国の代表が集まり、白熱した議論が交わされました。その結果、イギリス・ロンドンにある王立グリニッジ天文台を通る子午線を、世界の「本初子午線」と定めることが決まりました。
当時、世界の貿易や海運をリードしていたイギリスが、最も正確で広く流通していた海図(海の地図)を作っていたことが大きな決め手となりました。すでに世界中の航海士の多くがイギリスの海図を使っていたため、それを共通基準にするのが最も実用的だったのです。
本初子午線が決まったことで、世界の時間を合わせる共通の物差しも生まれました。地球は24時間で1回転(360度)するため、経度が15度変わるごとに1時間の時差が生じます。本初子午線を基準に、東へ行けば時間が進み、西へ行けば遅くなる世界標準時の仕組みは、この会議をきっかけに各国へ順次受け入れられ、数十年の歳月をかけて定着していきました。
もう少し正確に言うと
厳密に言えば、私たちが現在スマートフォンのナビやGPSで確認する経度0度は、ロンドンのグリニッジ天文台の中庭にある歴史的な真鍮(しんちゅう)のラインとは完全に一致していません。GPSが指し示す真の経度0度は、天文台の基準線から東へ約102メートル離れた場所を通っています。
かつては地上から星を見上げ、重力の方向を基準に線を引いていましたが、現代では宇宙の人工衛星やレーザーを駆使し、地球全体の質量中心を基準にして座標を高精度に再計算したためです。
この現代的な基準線は「IERS基準子午線(IERS Reference Meridian)」と呼ばれます。技術が進化して精度は格段に上がりましたが、人類が定めたスタートラインとしての本質的な役割は、かつてのグリニッジ天文台の時代と変わらず受け継がれています。
よくある誤解
本初子午線は赤道と同じように、地球の自転によって自然に生まれる物理的な境界線である。
赤道は自転軸の中心という物理的な根拠がありますが、縦の線はどこを出発点にしてもよいため、人類が話し合いによって決めた人工的な約束事です。
日常で出会う場面
イギリス・ロンドンのグリニッジ天文台で、地面に引かれた真鍮の線をまたぎ、右足を東半球、左足を西半球に置いて記念写真を撮る観光客の姿。
飛行機で時差のある国へ移動したとき、スマートフォンの時計が自動的に現地の時間に切り替わる基準。
つまり ひとことで
地球の東西の位置を測り、世界の時間を合わせるために、人類が取り決めによって定めた経度0度の基準線です。