定義
政策金利を限界まで下げても市場にお金が回らないとき、中央銀行が国債などを大規模に買い入れて、世の中に現金を直接供給する非常時の政策です。通常の金融の経路がふさがってしまったときに、止まった市場へお金を直接投入し、経済をふたたび動かすための特別な手段です。
蛇口を全開にしても、水が出ないとき
日照りでからからに乾いた田畑を救おうと蛇口を目いっぱいひねったのに、水がちょろちょろ出て止まってしまった。そんな場面を想像してみてください。ふだん中央銀行は、景気が落ち込むと、政策金利という蛇口を大きく開けてお金の流れを増やします。お金を借りる利息が安くなれば、工場が動き、人々も消費を増やして、市場が活気を取り戻すからです。
ところが、経済に大きな危機が訪れると、政策金利をほぼ0%まで下げても、お金を使ったり借りたりしようとする人はなかなか増えません。民間の銀行は貸し倒れを恐れて融資の扉を固く閉ざし、人々も将来が不安で財布のひもを締めてしまいます。金利はすでに底をついているので、これ以上蛇口をひねって下げることもできません。
このように、通常のお金の通り道がすっかりふさがってしまったときに取り出す非常手段が、量的緩和です。もう働かない蛇口をながめているかわりに、巨大な揚水ポンプを引っぱってきて、市場にお金を直接流し込む方法です。
もう少し正確にいうと、空からお金をばらまくわけではありません
量的緩和というと、中央銀行が印刷機で昼も夜も紙幣を刷って、空からばらまく姿を思い浮かべがちです。けれども実際には、紙のお金をどんどん印刷して配る方法ではありません。
中央銀行はコンピューターの帳簿上で電子的なお金をつくり出し、銀行や投資家が持っていた国債や安全な金融資産を大規模に買い入れます。国債とは、国が「あとで返します」と発行した借金の証書のようなものですが、それを売った側の口座には、巨額のお金が新たに振り込まれることになります。
国債を大量に買い入れると、国債の価格が上がり、長期金利が下がります。国債を売った側は、受け取ったお金で社債や株式などほかの資産を買うことになり、すると企業が資金を調達しやすくなります。こうして中央銀行が供給した巨額の資金が、金利や資産市場を通じて、経済のすみずみに広がっていくことが期待されているのです。銀行の貸出が実際にどれだけ増えたかは、研究によって結果が分かれています。
強力な景気刺激策のあとに続く副作用
量的緩和は、止まっていた経済のエンジンに大量の燃料を直接注ぎ込んで、ふたたび始動させる非常手段です。2008年の世界金融危機や2020年のパンデミックのような巨大なショックに見舞われたとき、世界経済が連鎖的に崩れる破局を防ぐうえで大きな役割を果たしたという評価が多くあります。
しかし、大規模にお金を投入しただけに、それに伴う副作用も無視できません。世の中にお金があふれすぎると、貨幣の価値が下がって物価が急激に上がることがありますし、あふれたお金が不動産や株式市場に集中して、資産バブルを引き起こすこともあるからです。資産を持つ人と持たない人との格差も、広がりやすくなります。
そのため、危機を乗り越えて経済が正常な軌道に戻ったら、ばらまいたお金を少しずつ引き揚げていく過程が欠かせません。支援の規模を少しずつ減らすテーパリングを経て、市場のお金をふたたび回収する量的引き締めの段階へと進んでいきます。
よくある誤解
量的緩和とは、工場で紙幣をどんどん刷って、人々にタダで配ることだ。
実際には紙幣を印刷するのではなく、中央銀行が電子的な帳簿上でお金をつくり、銀行や投資家が持つ国債を買い入れる方法です。そのお金は、金利を下げ、資産市場や貸出を経由して経済へと流れていきます。
日常で出会う場面
2008年の世界金融危機のあと、アメリカの中央銀行が住宅ローン担保証券(MBS)や国債を大規模に買い入れ、止まっていた経済をふたたび動かしました。
2020年の新型コロナウイルスのパンデミックで市場が麻痺すると、世界各国が前例のない規模の量的緩和を実施しました。
つまり ひとことで
政策金利が底をついたとき、中央銀行が国債を買い入れて市場にお金を直接流し込む、非常時の政策です。