科学

急性弛緩性麻痺

糸が切れたマリオネットのように、腕や脚からふっと力が抜けてしまう症状です。

  • 約4分
  • 図 1点
  • 2026-10-17 検証

定義

腕や脚の筋肉がこわばるのではなく、空気の抜けた風船のようにゆるんで、数日のうちに力が入らなくなる症状です。特定の病気の名前ではなく、さまざまな原因から出てくる症状のまとまりです。ポリオ(小児まひ)がまだ残っていないかを確かめるとき、世界はこの症状の数を数えて追っています。

なぜ筋肉はこわばらず、だらんと垂れるのでしょうか?

マリオネットを操っていた糸がぷつんと切れると、人形の腕や脚は力なく床に落ちますよね。急性弛緩性麻痺とは、これと同じように、元気だった人の腕や脚の筋肉から突然力が抜けて、数日のうちにだらんと垂れてしまう状態のことです。筋肉がこわばる痙性麻痺とは違って、空気の抜けた風船のようにふにゃっとなるのが特徴です。

ここで大事なのは、これが単一の病名ではなく、いくつもの原因で現れる症状のまとまり(症候群)だという点です。神経に炎症が起こるギラン・バレー症候群や、ほかのウイルス感染、脊髄の外傷など、さまざまな理由で神経のネットワークに問題が起きたときに出てくることがあります。

脳から出た「動け」という命令は、脊髄と末梢神経を通って全身の筋肉に届けられます。この伝達ルートのなかでも、筋肉に直接つながっている末梢の運動神経や脊髄の細胞が傷つくと、筋肉は張りを失い、力なくゆるんでしまいます。

ポリオ監視網のいちばん鋭いレーダー

保健の専門家がこの症状にとくに注目するのは、まさにポリオを見張るためです。ポリオを起こすウイルスに感染しても、麻痺にまで進む人はそのうちのごく一部です。残りの大半は、気づかれないまま過ぎていきます。

感染した人の多くは、まったく症状が出ないか、軽い風邪のように治ってしまうため、見た目だけではウイルスがどこにひそんでいるのか探し出すのは困難です。そこで世界の防疫網は、子どもに脚がだらんと垂れる麻痺の症状が出たら、ただちに便を採取して、ウイルスがいないか精密に調べます。

ポリオがない地域でも、ほかの神経の病気のためにこの症状は毎年いくらか出てきます。そのため、見張る側は「麻痺を十分に見つけられているか」と「見つけた麻痺をもれなく検査したか」の両方を見ます。世界保健機関(WHO)は、ポリオではない弛緩性麻痺が15歳未満の子ども10万人あたり毎年一定の件数以上報告されているかどうかを、監視網がきちんと働いているかを測るものさしにしています。見つけた麻痺からウイルスが出てこなくて初めて、その場所に病気がないと言えるからです。

もう少し正確に言うと:二つの目で動く監視体制

この症状を数えることがなぜ監視になるのか、整理してみましょう。確認された患者さん一人から出発して、その人が会った人たちをたどっていくのは接触者追跡で、人口全体のなかでこの症状がどこに何件出ているかを見続けるのがサーベイランス(監視)です。次元が違い、後者が狙っているのは、ある病気を数えることではなく、ないことを確かめることです。

ポリオのような病気を追い払うときは、脚が麻痺した患者さんをすべて見つけて検査するだけでなく、都市の下水の水を採取して、ウイルスが混ざっていないかまでくまなく調べます。病院に現れた麻痺の患者さんを探すことと、下水の中のウイルスを探すことは、一つの監視体制の二本の柱として一緒に動きます。症状のない感染者が排出したウイルスが、下水に混ざって流れているかもしれないからです。

患者さんを探す臨床サーベイランスと、下水を調べる環境サーベイランス。この二つの目がそろって働いて初めて、すき間のない監視網ができあがります。この二つの道がつながり、ウイルスが完全に消えた状態に行き着いたとき、私たちはようやく病気の根絶という最終的な結果にたどり着けるのです。

よくある誤解

誤解

急性弛緩性麻痺は、ポリオウイルスに感染したときだけかかる特定の病気である。

事実

ポリオだけでなく、ギラン・バレー症候群や脊髄の神経の損傷など、さまざまな原因で筋肉の力が抜ける「症候群(症状のまとまり)」です。

誤解

急性弛緩性麻痺の患者が出たということは、その地域でポリオが流行しているという意味である。

事実

この症状はほかの神経の病気でも出るため、麻痺が出たというだけではわかりません。検査でポリオウイルスが出るかどうかを見て、初めて分かれます。むしろポリオがない場所でもこの麻痺は毎年いくらか出ていて、それをもれなく検査するのが監視の役目です。

日常で出会う場面

  1. ポリオが完全になくなった国でも、神経の損傷などが原因で、急性弛緩性麻痺の症例が毎年少数ながら自然に起こります。

  2. 子どもが突然脚に力が入らなくなって歩けなくなると、保健当局に報告され、便を採って原因となるウイルスがいないか検査されます。

つまり ひとことで

筋肉がだらんと垂れて力を失う症状で、ポリオがまだ残っているかを人口全体で確かめるときに数える指標です。

作成 2025-04-17 更新 2026-10-17 検証 2026-10-17