定義
ブルックスの法則は、すでに納期が遅れているプロジェクトに人を追加すると、完成がかえってさらに遅れるという法則です。アメリカのソフトウェア工学者フレデリック・ブルックスが、1975年の著書『人月の神話』で、IBMのオペレーティングシステム開発の経験をもとに示した経験則で、複雑な仕事における人手と時間の関係を鋭く突いた、組織マネジメントのパラドックスです。
人を増やしたのに、なぜ仕事は遅れるのでしょう?
1人が10か月かかりきりでやっと終わる仕事があるとします。単純に計算すれば、10人集めて投入すれば1か月で終わりそうですよね。でも、現実はそうは回りません。9人の妊婦さんが集まっても、赤ちゃんを1か月で産むことはできないのと同じです。世の中のどんな仕事にも物理的に時間が必要で、順番に一歩ずつ進めるしかない工程があるからです。
新しく加わったメンバーが、初日から手際よく働くことはできません。既存のメンバーが自分の手を止めて、プロジェクトの目標、システムの構造、現在の進み具合を一つひとつ教える必要があります。その間、頼れるエース級の既存メンバーの作業時間まで削られてしまいます。
結局、新しい人が仕事に慣れて一人前に働けるようになる前に、最初の教育と慣れるまでに使う時間のせいで、プロジェクトの締め切りの時計はいっそう速く「遅刻」の側へ傾いていきます。
会話の経路が爆発的に増えます
人数が増えるとき、もう一つ大きな問題になるのがコミュニケーションです。2人で働くなら、会話の経路はたった1本。ところがメンバーが4人になると線は6本、8人になると28本、10人になるとなんと45本へと、爆発するように増えていきます。
メンバーが増えるほどチャットのルームは入り組み、会議は延々と長くなり、お互いが何をしているのか確かめるだけで大きなエネルギーを使うようになります。本来の仕事を進める時間は減り、会議室に缶詰になる時間だけが増える、というわけです。
こうして、それぞれの成果物をひとつにまとめて調整するためのコミュニケーションコストが雪だるま式に膨らむため、チーム全体の生産性は人数ほどには伸びず、ひどいときにはむしろ下がってしまいます。
もう少し正確に言うと
ブルックスの法則は、「人を増やすことはいつでも無意味だ」という極端な主張ではありません。レンガを運んだり、単純な梱包作業をしたりするように、仕事の分担がはっきりしていて、お互いに相談する必要のない単純作業なら、人を増やすほど速くなります。
しかし、ソフトウェア開発やデザイン、複雑な企画といった知的労働は違います。自分が書いたコードの1行が、ほかの人の画面にすぐ影響するので、絶えずお互いの作業を確認して突き合わせなければなりません。仕事が複雑になるほど、人を足す効果は半減します。
ですから、すでにスケジュールが崩れてしまった状況では、やみくもに新しい人員を投入するよりも、中核となる機能だけを残して範囲を絞る、あるいは締め切りそのものを現実的に交渉し直すといった方法が、代案としてよく挙げられます。
よくある誤解
プロジェクトが忙しいときに人を投入するのは、いつでも必ず損だ。
プロジェクトの初期に十分な慣れの期間を取って人員を補強する場合や、お互いに話し合う必要がないほど完全に独立して切り分けられる単純作業の場合は、人員の追加が大きな助けになります。問題が起きるのは、「すでに遅れた時点」で「複雑に絡み合った仕事」を急いで片づけようとするときだ、という点がポイントです。
日常で出会う場面
発売日まで2週間のゲーム開発チームに新しい開発者を5人投入したところ、引き継ぎに追われて既存のバグも直せず、発売がさらに1か月延びてしまいました。
締め切り間近の報告書づくりに支援部門から大勢を投入したら、文体や書式の統一と内容の突き合わせのために、徹夜の会議だけが増えました。
つまり ひとことで
遅れているプロジェクトに人を足すと、教育の時間とコミュニケーションコストのせいで、かえってもっと遅れてしまいます。