定義
ある作業を終えるのにかかる時間や費用、労力を、実際よりずっと少なく見積もってしまう心理的な錯覚です。似た作業で何度も遅れた経験があるのに、「今回だけは計画どおり完璧に進む」と楽観的に予想することで起こります。
「明日には全部終わるよ」という嘘
週末のうちに、たまった掃除と勉強を全部片づけると決めた。そんな記憶は、誰にでも一度はあるはずです。朝起きて予定表を作っているときは、すべてが歯車のようにきれいにかみ合う気がします。ところが実際は、お昼ごはんを何にするかで時間がずるずる延び、急にかかってきた電話に出ているうちに、気づけば日が暮れています。
私たちは先の計画を立てるとき、無意識のうちに「何もかもが理想的に進む最高のシナリオ」だけを頭に描きます。途中でパソコンが調子を崩すことや、疲れて少し休まなければならなくなることといった突発的な要素は、計算からすっぽり抜け落ちているのです。
こうして障害には目をつぶり、順調な道のりだけを想像するので、必要な時間をあり得ないほど短く見積もる錯覚に陥ります。この現象が、心理学でいう計画錯誤です。
国家的な大プロジェクトも逃れられません
計画錯誤は、個人の日記帳の中だけで起きる小さな失敗ではありません。世界的な建築物や大規模な都市開発のような巨大プロジェクトでも、よく見られます。いちばん有名な例が、オーストラリアの象徴であるシドニー・オペラハウスです。
当初の計画では、建物を造るのに4年の期間と約700万豪ドル(当時の通貨ポンドを換算した金額)の予算があれば十分とされていました。ところが実際には、技術的な難関や設計変更が相次ぎ、完成までに実に14年かかりました。費用も当初の予想の14倍を超える約1億200万豪ドルにまでふくらんだのです。
専門家が集まって綿密に計算したのに、なぜこんなことが起こるのでしょうか。人は、過去にほかの工事が遅れた数々のデータは無視して、目の前のこのプロジェクトだけは特別だと信じてしまいがちだからです。
もう少し正確に言うと:錯覚を破る3つの方法
計画錯誤は、怠け者だから、あるいは無能だから起きる問題ではありません。人間の脳はもともと未来を前向きに見たがる楽観バイアスを抱えていて、そのために起こる、ごく自然な心のクセに近いものです。
では、どうすれば現実的な計画を立てられるのでしょうか。行動経済学者は、「内部の視点」から離れて「外部の視点」を借りるようにすすめています。自分のやる気や情熱だけを見るのではなく、過去に似た課題をやったとき実際に何日かかったのか、客観的な記録を確かめるのです。
また、計画を立てるときに「予想外の邪魔を片づけるための余裕時間」をあらかじめ足しておく方法もあります。さらに、計画がすでに失敗に終わったと仮定して、その理由を先に書き出す事前検死(プレモーテム)を使えば、漠然とした期待から抜け出し、ずっと頑丈な計画を立てられます。
よくある誤解
時間管理をきちんとしない怠け者だけが、計画錯誤に陥る。
計画錯誤は、意志の強さや真面目さの問題ではありません。専門家の集団や大企業でも、未来をバラ色に見てしまう楽観バイアスのせいで、まったく同じ錯覚に陥ります。
日常で出会う場面
試験勉強を3日で終わらせる計画を立てたのに、実際は教科書の半分も見られないまま試験会場に入ることになります。
ソフトウェア開発のプロジェクトで「1ヵ月あれば完成します」と豪語したのに、半年以上かかってようやくリリースされる場合です。
つまり ひとことで
人は未来の邪魔な出来事を抜きにして考えるため、作業に必要な時間や費用を実際より少なく見積もりがちです。