定義
近所の裏山の散歩道を何度か歩いただけで、「エベレスト登山もたいしたことないんじゃない?」と自信満々になったことはありませんか? ダニング=クルーガー効果とは、ある分野をよく知らない初心者ほど自分の実力を実際より高く見積もり、逆に優れた専門家は自分を低めに評価してしまう認知バイアス(考え方のゆがみ)のことです。 自分の足りなさに気づくには、その分野をきちんと評価できる目が必要です。ところが初心者は、自分が何を知らないのかさえわからないので、こうした思い違いが生まれます。
なぜ初心者ほど堂々としてしまうのでしょうか?
運転免許を取ったばかりで、数日だけ道路に出た初心者ドライバーを思い浮かべてみましょう。車線に合わせて走り、アクセルとブレーキを踏む基本操作に慣れてくると、「運転って思ったよりずっと簡単じゃん」と得意になりやすいものです。
でも、凍結路でのスリップや、夜の豪雨、複雑な交差点での突発的な出来事など、たくさんの危険要素はまだ経験していません。経験がないので、自分が何に気をつけるべきか、どれくらい危ない状態なのかを測る基準線そのものが、心の中にないのです。
自分の実力を正確に採点する能力と、その分野の実力そのものは、同じ知識から生まれるからです。自分を批判的に振り返る目が足りないために、皮肉なことに、恐れ知らずで根拠のない自信にはまり込んでしまいます。
学びが深まると、なぜ謙虚になるのでしょうか?
本格的に勉強を続けたり、実戦の経験を積みはじめたりすると、状況はがらりと変わります。世の中に自分よりすぐれた達人がどれほどたくさんいるかがようやく目に入り、身につけるべき知識の海が山のように巨大だと気づくからです。
この段階に入ると、最初に持っていたぼんやりした自信は雪が解けるように消えていきます。自分が知っていたことは氷山の一角にすぎなかったという気づきとともに、「自分はまだまだだな」という深い自覚が生まれます。
このとき感じる足りなさは、実力が落ちたから生まれるのではありません。むしろ、自分の限界を客観的に観察できるメタ認知(自分の考えを点検する力)がしっかり育った、すばらしいサインです。知らないことを知らないと認めることが、本当の学びの出発点です。
もう少し正確に言うと:ネットミームと元の研究の違い
インターネットで「愚かさの山」や「絶望の谷」といった言葉とともに、ジェットコースターのように上り下りするグラフを見たことがあるでしょう。この曲線は、一般の理解を助けるために作られた有名なネットミーム(広まった例え話)で、1999年にダニング教授とクルーガー教授が発表した元の論文に載っていた実際のグラフではありません。
実際の研究では、人々に論理力と文法のテストを受けてもらったあと、自分の成績を予想してもらいました。その結果、実際にはパーセンタイル順位が10パーセンタイル台にとどまった下位25%の人たちが、自分の成績を60パーセンタイルあたり、つまり平均より上だと予想して、もっとも大きな過大評価をしていました。実力が足りない人ほど、自己評価のずれがいちばん大きかったのです。
一方、上位25%の本当の実力者たちは、自分の成績を70パーセンタイル台と、実際より少し低めに評価しました。「自分がこれくらい楽に解けたなら、ほかの人にも簡単だっただろう」と考えたからです。ただし、この結果の大部分は統計上の錯覚(平均への回帰や、誰もが自分は平均より上だと思いがちな傾向)でも説明できるという反論があり、効果の大きさをめぐって今も議論が続いています。
よくある誤解
ダニング=クルーガー効果は、知能の低い人だけが経験する現象である。
知能に関係なく、誰でも新しい分野や慣れない知識に初めてふれるときに経験しうる、ごく一般的な心理現象です。
日常で出会う場面
株式投資を始めて一週間で利益が出て、自分を「投資の達人」だと信じ込んでしまうケースです。
外国語の基本的な会話をいくつか習って、「外国語の勉強なんて大したことないな」と甘く見てしまう瞬間です。
つまり ひとことで
自分の足りなさを見る目がないので初心者ほど自信満々になり、学ぶほど知らないことが多いと気づいて謙虚になる現象です。