定義
自分には悪いことより良いことが起きる確率のほうがずっと高いと、自分で思い込んでしまう心の錯覚です。統計上のリスクは実際より小さく見積もり、前向きな期待ばかりを大きく受け止めてしまう、脳の代表的な考えのクセです。
まさか自分に、そんな悪いことは起きないでしょ?
買ったばかりのスマートフォンを持って道を歩くとき、画面が割れるのを本気で怖がりながら歩く人はほとんどいません。統計的にはたくさんの人がスマホを落として画面を割っていますが、私たちは心のなかで「自分は注意深いから絶対に落とさない」と軽く流してしまいます。
このように私たちは、他人に起きる損害や不幸は現実的によく認めるのに、自分に降りかかるリスクはずっと低く見積もります。飛行機の遅延、傘の置き忘れ、試験の落第といった困りごとはいつも他人事のようで、宝くじの当選や仕事の大成功といった良いことだけが自分の分のように感じられるのは、そのためです。
こうした態度は、単に性格が明るいから生まれるものではありません。認知心理学では、私たちが未来を予測したり判断したりするときに、脳の中で自動的に起こる代表的な認知バイアス(考え方の偏り)だと説明されています。
もう少し正確にいうと:なぜ脳はバラ色の未来ばかり描くのでしょう?
2011年のイギリスの研究チームの実験によると、人は良い知らせと悪い知らせの受け止め方が違っていました。自分に都合のよい知らせを聞くと予想を大きくそちらへ修正しましたが、危険の警告や悪い統計を聞いても、予想をあまり修正しない傾向が見られました。
パソコンのハードディスクが故障する統計を見ても、「自分のパソコンは壊れないよ」と言って大事なデータのバックアップを後回しにする現象が、まさにこうした姿です。ただし、この実験結果が実験の設計によって生じたものかどうかについては、さまざまな見方があります。
進化の観点からは、こうしたバイアスが生き残りに役立ったのではないか、という説明もあります。未来の危険や失敗ばかりを毎日くよくよ考えていたら、原始の人類は猛獣が潜む野原へ狩りに出られなかったはずだからです。不安を和らげて、挑戦を始める助けになったのかもしれない、というわけです。
楽観のしすぎが招く落とし穴と対処法
楽観バイアスは恐れを和らげ、新しい挑戦を後押ししてくれますが、現実的な備えをおろそかにさせる致命的な落とし穴にもなります。試験の前の晩に「これくらい見ておけば、明日は知っている問題しか出ないでしょ」と言って寝てしまい、痛い目にあう経験がそうです。
起業家が市場調査をきちんとしなかったり、ドライバーが悪天候への備えを怠ったりするのも、未来をあまりに明るくばかり見た結果です。だから大事なことを計画するときは、締め切りや予算を見込みよりずっと余裕をもって組む、最悪のシナリオをあらかじめ検討する習慣がぜひ必要です。
「希望を抱きつつ、現実の傘を持っていく」という言葉のように、前向きな気持ちで目標へ進みながら、足もとに潜む石ころを避けるための現実的な安全策もあわせて用意する姿勢が、バランスのとれた知恵です。
よくある誤解
楽観バイアスは、何事も前向きな性格の人にだけ現れる。
自分を慎重だ、あるいは悲観的だと思っている人を含め、ほとんどの人が特定の分野でこのバイアスを示します。性格のタイプではなく、人間の脳が情報を処理するときの共通の特徴だからです。
日常で出会う場面
元日にジムの1年会員の手続きをしながら、「今年は毎週4回、必ず通うぞ」と固く信じる瞬間です。
多くの起業家が、周辺の商店街の閉店率の統計を見ても、「自分の店は成功する」と言って開業を急ぎます。
つまり ひとことで
悪いことは自分をよけて通り、良いことだけが起きると信じてしまう、脳の代表的な考え方の錯覚です。