定義
後知恵バイアスとは、物事の結果を知ったあとに、その結果が最初から予測可能だったと感じたり、自分がもともと予測していたと錯覚したりする心理現象のことです。株式市場や日常生活で、何かが起きたあとに「やっぱりそうなると思った」と確信する態度が代表的な例です。
なぜ私たちは「全部知っていた」と思い込むのでしょうか?
サッカーの試合が終わったあと、友人が「あいつがゴールを決めると思ってたんだよ!」と言うのをよく耳にします。しかし試合が始まる前には、誰一人として勝敗を100%確信できてはいませんでした。どれほど優れた解説者であっても、試合中は何が起こるかハラハラしながら見守るしかありません。
人間の脳は、結果を知るとその結果を中心に過去の記憶を自然と再構築します。ゴールが決まった瞬間、選手が懸命に走っていた場面だけが鮮明に残り、それまでに犯した数々のミスは頭の中からスーッと薄れていきます。すべての手がかりが、まるでその一つの結末に向かって集まっていたかのように感じられるのです。
このように、結果を知ったあとにすべての証拠を結果に合わせて辻褄を合わせ、結果が最初から明白だったと感じたり、あらかじめ知っていたかのように記憶を書き換えたりする現象こそが後知恵バイアスです。このバイアスに陥ると、過去の瞬間が実際よりも不確実性の低いものだったかのように錯覚してしまいます。
投資市場で支払う危険な代償
このバイアスは、株式や不動産などの投資市場において特に危険な形で現れます。株価が大きく暴落すると、経済ニュースやネットの掲示板には「暴落せざるを得なかった数十もの理由」が一斉に溢れ出します。あらゆる指標があらかじめ下落を示していたかのように見えるのです。
こうした分析を目にし続けると、投資家は「自分もとっくにリスクに気づいていたのに、なぜ売らなかったのだろう」と悔やんだり、逆に自分の予測能力を過大評価したりしてしまいます。世界に存在する巨大な不確実性を忘れ、市場の流れを完全に見通せているという根拠のない自信に囚われる危険な状態に陥るのです。
その結果、次の投資でも「今回も自分の予想が当たるはずだ」とリスクを無視し、無謀にお金を投じやすくなります。これは大きな損失を招く近道になってしまいます。
もう少し正確に言うと
もう少し正確に言うと、このバイアスには「過去の自分の予測を誤って記憶すること」「結果が必然だったと感じること」「誰にでも事前にわかったはずだと感じること」という3つの側面が含まれています。結果を知ると、脳はその情報を基に既存の知識や記憶を自動的に上書きし、さらに物事がなぜ起きたのか理由をつけて納得しようとするため、このバイアスが生じると説明されます。世界を予測可能な場所だと感じて安心したいという心理も働いています。
しかし、現実の経済や社会は無数の偶然や突発的な要因が複雑に絡み合っており、事前に完璧に予測することは不可能です。過去の偶然の成功を自分の優れた見識のおかげだったと信じ込んだ瞬間、未来に潜む真のリスクが見えなくなる致命的な罠にはまってしまいます。
このバイアスを和らげるのに有効な方法の一つが、決定を下す前に、その時の考えや判断の根拠をあらかじめ記録しておくことです。投資ノートや日記をつけておけば、あとから結果に合わせて記憶が書き換わっても、当時の実際の思考と客観的に照らし合わせることができます。また、「別の結果になっていた可能性」をあえて考えてみることも効果的です。
よくある誤解
後知恵バイアスは、他人に格好をつけるために嘘をつくことだ。
他人を騙そうとする意図的な嘘ではありません。自分自身の脳が過去の記憶を無意識に書き換え、それを本当に信じ込んでしまう認知の錯覚です。
日常で出会う場面
株価が暴落したあとにチャートを見て「下落のサインがこんなにはっきり出ていたのに、なぜ気づかなかったのか」と、当時は不確実だったシグナルを最初から明白だったかのように過大評価するケース。
テストの丸つけをしながら「本当は3番にしようと思っていたのに」と、実質的に答えを知っていたかのように思い込む瞬間。
つまり ひとことで
物事が終わって結果を知ったあと、最初から自分はすべて知っていた、あるいは誰でも簡単に予測できたはずだと思い込んでしまう心の錯覚です。