定義
酸化還元反応とは、ある物質が電子を失い、別の物質がその電子を受け取る化学反応のことです。電子を失うことを酸化、電子を受け取ることを還元と呼び、この2つは常にペアになって同時に起こります。
リンゴが茶色くなり、クギが錆びる理由
皮をむいたリンゴを置いておくと茶色く変色したり、雨ざらしの自転車のチェーンに赤いサビがついたりしたのを見たことがあるはずです。食べ物が傷むのも、キャンプファイヤーの薪がパチパチと燃え上がるのも、すべて私たちの身の回りで絶え間なく起きている酸化還元反応の仕業です。
昔の科学者たちは、物質が酸素と結びつく現象を「酸化」と名付けました。リンゴの成分や鉄が、空気中に漂う酸素と結びついて性質が変わる様子を見てつけた直感的な呼び名でした。反対に、酸素を手放して元の純粋な状態に戻る現象を「還元」と呼んだのです。
鉄鉱石から鉄を取り出す製鉄所でも、昔からこの原理が活用されてきました。自然界から掘り出した赤い鉄鉱石は酸素と固く結びついていますが、そこから酸素を取り除いてピカピカで丈夫な鉄を取り戻すプロセスこそが、代表的な還元の姿なのです。
本質はここから:酸素よりも重要な「電子」のキャッチボール
しかし、酸素がまったくない環境でも、これと全く同じ性質を持つ化学反応がたくさん起こります。そこで科学者たちは、より本質的で広いルールを突き止めようとしました。実は、酸化と還元の真の主役は酸素ではなく、原子の間を行き来する「電子」だったのです。
現代の化学では、物質が持っていた電子を失うことを酸化、反対に電子を受け取ることを還元と定義します。電子はマイナス(-)の電気を帯びているため、電子を受け取ると物質の酸化数は下がります。還元(Reduction)という言葉は、もともと鉱石から酸素を取り除いて金属に戻す(減らす)精錬作業に由来する古い呼び名ですが、現代の「酸化数が減る(下がる)」という説明にも見事にマッチしています。
電子は宙にふわりと浮かんで勝手に消えてしまうことはできません。ある物質が電子を手放したら、必ず別の物質がその電子を即座に受け取る必要があります。誰かがボールを投げたら受ける相手が必ずいるように、酸化と還元はいつでも必ず同時にセットで起こるのです。
私たちの体とスマホを動かす見えないエンジン
酸化還元反応は、モノが錆びたり古くなったりするだけの現象ではありません。実は私たちが呼吸をし、食べたものからエネルギーを取り出して活動する生命活動の根幹にも、この反応が深く関わっています。
食事から摂ったブドウ糖(グルコース)は、細胞の中で酸素とともにゆっくりと酸化され、体を動かし体温を保つための生命エネルギーを安全に取り出しています。逆に植物が太陽光を浴びて行う光合成では、水が酸化されて酸素が発生し、その電子を使って二酸化炭素が還元されることで、甘い栄養分(ブドウ糖)が作り出されます。
私たちが毎日使うスマートフォンや電気自動車のバッテリーも、まさにこの原理で動いています。充電するときも使うときも、2つの電極で酸化と還元がペアになって同時に起こっています。バッテリーを使うときに進んでいた反応が、充電するときには逆方向に巻き戻されているだけなのです。
よくある誤解
酸化還元反応は、必ず酸素がなければ起きない。
酸素との結びつきは酸化還元のごく一部にすぎません。酸素がまったくない環境であっても、電子のやり取りがある化学反応はすべて酸化還元反応にあたります。
日常で出会う場面
切ったリンゴを空気にさらしておくと表面が茶色く変色する現象(褐変)
鉄橋や自転車のチェーンが雨風にさらされて赤サビだらけになる現象
スマートフォンのリチウムイオン電池が電子をやり取りしながら充電・放電する仕組み
つまり ひとことで
酸化は「電子を失うこと」、還元は「電子を受け取ること」であり、この2つは常に同時にペアで起こります。